毎年お盆が近づいてくると、不思議と太平洋戦争当時の「新事実」や機密文書が発見され、「終戦の日」の数日前に朝刊一面へスクープが放たれる。
数十年前の現代史ですら、新たな事実が見つかるのだから、数百年、数千年、はたまた数万年前の歴史について、「我々が学んだ史実」は、はたしてどこまで真実と言えるのだろうか?
本書は地球に生命が誕生して以降の生物進化について、「人類誕生=直立二足歩行の始まり」と位置づけ、いかにして人間を唯一無二の存在たらしめるに至ったかを教えてくれる、壮大なロマンあふれるサイエンスノンフィクションだ。
人類の進化、と聞いたときにイメージしてしまうのは、ナックルウォークで四足歩行する類人猿から徐々に腰が水平になり、槍を手に二足歩行する経緯を描いた「人類進化の行進図(ルドルフ・ザリンガー)」ではないだろうか?
だが足専門の古人類学者である著者は、その図を間違い (P117)だと否定し、「最初から立っていた」と主張する。
二足歩行は不安定であり、かつ逃げ足も遅い。それはつまり肉食獣の餌食となり、生き残ることが困難であるにもかかわらず、なぜ人間は現在に至るまで繁栄を続けることができたのだろうか?
著者らは、直立二足歩行はエネルギー消費が少ない移動手段であり、余剰エネルギーを脳の成長に振り向けられる (P163)と推測し、手が自由になったことと合わせ、火や道具の使用が可能になったのではないかと語る。
脳の成長に伴う利点はそれだけではない。
仲間とコミュニケーションを取ることができ、協力し合うことで捕食者から身を守ったのだ (P165)という仮説には、思わず膝を打ってしまう。
事実、他の生物が生息領域を限定していたのに対し、人類は氷河期で陸続きだった大陸を渡り歩き、世界中に生息領域を拡大させていった。
いわば、歩くことは人類のデフォルトだ。食べるためには、歩かなければならなかった。人類史を通じてこれが当たり前だった (P290)と、バイオメカニクス研究者が語り、農耕社会や文明の発達に伴い、人間が歩かなくなったのはごく最近のことなのだ (同)と現代人に警鐘を鳴らす。
生化学的には歩くことによって、インターロイキン6の一種であるマイオカインが筋肉から生成されるといい、その効果が立証されているそうだ。
毎日のウォーキングは、特定の種類のがんや心疾患を予防するだけではない。自己免疫疾患も防げるし、血糖値を下げることによって2型糖尿病の予防にもつながる。不眠を改善し、血圧も下げる。コルチゾールの血中濃度を下げることでストレスを軽減する (P301)と、現代人が悩む様々な疾病予防に効果があることを教えてくれる。
さらには、記憶を司る海馬の成長にもつながり、うつ症状や不安神経症も緩和することは、下記関連書籍でも広く紹介されている。
一方、400ページを超える本書は、人類学に不得手な読者にとっては退屈に感じる場面もあり、完読するには覚悟を要するものの、なぜ歩くことが健康的に生きることにつながるのかについて、人類の起源から裏付けられたようだ。
関連書籍:
脳を鍛えるには運動しかない!(本書の参考書籍としても紹介)
運動脳
BORN TO RUN 走るために生まれた
Natural born heros
GO WILD 野生の体を取り戻せ! |