陸上競技・5,000m走をテーマにした「ランナー」シリーズも2007年から数えてついに完結する。
碧季と貢がお互いを意識し、強烈なライバル関係を築くことに至った本当の背景はなんだったのだろうか?
複雑な家庭環境に育った杏樹はどのように成長していくのだろう?
そして、前マネージャーの杏子がひそかに心を寄せていた陸上部顧問の箕月との関係やいかに!?
などなど、前作までモヤモヤしていたストーリーは、ラストスパートで明らかにされるに違いない。
本作は陸上長距離を舞台にしたシリーズ物で、ランナー 、スパイクス ランナー2 、レーン ランナー3 に続く第4作目。
主人公・東部第一高校の加納碧季と、天才ランナーと称される清都学園高校の三堂貢が接する過程で、お互いの潜在能力が引き出されていくというストーリーで、なぜふたりが交錯することで化学反応 (P200)が生じるのかが第二作目から残る最大の謎だ。
碧季は本作でも貢を目標にどんどん成長していく。
最高ではない (P21)という調子ながらも、いくつかの運動部が活動する東部第一高校のグラウンドで (P20)さらりと自己ベストを更新する14分21秒84を記録してしまう。
14分20秒といえば、一周あたり68秒前後の計算になり、高校生ならばトップクラスのパフォーマンスだ。
しかもこの記録を学校のグラウンドであっさり出してしまうのだから、条件が整えば一体どれだけ凄いことになるのだろうと驚愕してしまう。
そして迎えた貢との二人だけのレース。
碧季の1周目のラップタイムは67.74 (P222)と、練習段階の記録から想定するとさほど驚くほどではないはずだが、周囲は明らかにオーバーペースだ 、こんなペースで走ってたらすぐに潰れちまうぞ (P222)と目を丸くし、当の本人ですらこんな走りは二度とできない (P227)と、まるで奇跡が起きたような大騒ぎだ。
それだけではない。高校総体の地方予選に関して、五千メートルは記録にもよるが、基本的に優勝者一名しか全国への出場権を掴めない (P33)と紹介するセリフに、つくづく「分かっていない」感が伝わってきてしまう。
うーむ、これほどロングランで長距離走を描いているのだから、そろそろ自然な表現に落ち着いてほしいのだが。
しかも周回に対して「週」と誤って書いているし、小説としての評価以前に、書籍としての完成度も著しく低品質だ。
いやいや、些細な記述には目をつむろう。おそらく本書の魅力はもっと深淵な部分にあるに違いない。
そうだ! 前述した二人の「ラストラン」が第二作目で碧季がマークした14分08秒につながっているのだろうか?
なるほど、ようやくストーリーがつながった! と思ってその後の展開を楽しみにしていたのだが、なぜか二人は5,000mを完走することなく競技場から出て行ってしまう。
あまりに空しいラストランだ。
いやそう考えるのは早計だと思いたい。
そ、そういえば脇役たちのエピソードはどうなったのだろうか?
杏樹が加納家で育てられることになった本当の理由はなんだったのだろう?
杏子と箕月との禁断の愛は成就したのだろうか?
ま、まさか、完結編の本書でもそれらが全く明らかにされないなんて。
一体これらのエピソードは何のために創作されたのだろう?
いつか謎が解き明かされることを期待してシリーズを完読したが、残念ながら全てが中途半端な印象が残ってしまう。
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