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箱根駅伝予選会で敗れ、本戦出場を逃した選手で構成される「学連選抜(現称・学生連合)」をテーマにしたチーム の活躍から17年。
シリーズを重ね、ヒート を含めると本作が5巻目に数えられるほどの長寿作品だ。
舞台はあれから17年後の箱根駅伝、というリアルな設定が面白い。
そう、かつて選抜チームの一員だった選手が、監督となり選手を指揮する立場になったのだ。
しかも、学生連合を率いる人物は、17年前にエースとして選抜チームで活躍した、山城悟だ。
山城といえば、学生時代から孤高の存在として知られていたが、卒業後にマラソン日本最高記録を樹立するなど、選手としての経歴は並外れている。
指導者としても、前作で日向誠のマラソンコーチとして強力な個性を発揮したものの、自身があれほど忌み嫌っていた学生連合を率いることは皮肉であり、全く乗り気がしない。
一方で、かつて選抜チームでタスキをつないだ浦大地は、優勝候補・城南大の監督として大学長距離界の第一人者として称えられているが、大学側との確執から、これが最後の箱根になるのではとも囁かれている。
そんな「覚悟」を背負った長距離エリート校に対し、学生連合は相変わらず一枚岩になり切れず、合宿時点からチグハグな様子が隠しきれない。
浦と山城の違いは明確だ。
浦は学生とのコミュニケーションを大切にし、選手を鼓舞する言葉は心に響くものばかりで、一連の発言をまとめた本が出版されるほど、陸上競技界のみならず、コーチングに定評がある人物だ。
それに対し、山城は他人を励ました経験すら皆無なのだ。
現役時代も走っている時に監督から何を言われたか、まったく覚えていない。完全に自分の世界に入りこんでいて、指示を聞く必要などない (P47)と言い捨て、箱根駅伝名物の運営管理者からの声掛けすらも、それは・・・やらないと駄目なのかな (同)とコミュ障ぶりを隠そうとしない。 そんな対照的な二人の関係と、熱を帯びた描写力は安定した読み応えがあり、さすが小説出版200冊目という著者の表現力に感心してしまう。
しかしながら、登場人物が多い一方で人物描写が薄く、名前を覚えることすら困難で、感情移入に至らない。
むしろ、登場人物は無駄に多くなっており、たとえば6区序盤で駒澤大・小宮の猛追を称し、一万メートルを二十七分台で走る、駒澤のエースだ。どういう狙いで六区に起用したかは分からないが、作戦は奉功したと言っていいだろう。 (P257)と、その後の波乱を予感させながら、小宮はその後全く登場しないどころか、同校が復路で先頭争いに絡むことは一切なく、伏線回収に至らない。
登場人物の多さから著者自身も混乱しているのか、事実関係の矛盾も散見され、たとえば山城が母校・東体大の監督就任を打診された際の電話で、権藤のハーフマラソンベストは一時間五十二秒 (P31)だったはずが、監督就任後の対談では一時間二分五秒〇八 (P306)と遅くなっている。
またストーリー展開も不自然で、大半の選手が、レース後半で唐突な足の痛みに襲われ失速するワンパターンで、終盤の顛末が想像できてしまう。
著者の作品を多数購読してきたゆえの、贅沢な不満なのかもしれないが、著作数を重ねるだけではなく、マンネリを破った、読者の心を揺さぶるような、質の高い作品に期待したい。
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