東京オリンピックを2年後に控え、にわかにスポーツに関する報道に熱が帯びてきている。
特に男子マラソンでは、今年(2018年)に入って設楽悠太と大迫傑が日本記録を更新し、それぞれ1億円の報酬が贈られたことが大きな話題となっている。
はたしてマラソン・ニッポンは復活できるのだろうか? マラソンファンならずとも、日本人ならばこの種目の行方は誰しも気になってしまうことだろう。
かつてマラソンは日本のお家芸と称された時代があったが、いまでは男女とも世界との差は開いていく一方だ。そんな状況を憂い、母国で開催される2020年に向けて何が必要なのかを考察したのが本書だ。
本書は男女ともに惨敗した2015年北京世界選手権後に出版された。いや、女子マラソンはかろうじて伊藤舞が7位入賞したのだから、惨敗というのは言い過ぎなのかもしれない。
しかし著者はこの結果にモヤモヤしている (P26)と吐露し、翌年のリオ五輪の目標が「入賞」なら、伊藤にもチャンスはあるだろう。しかし、伊藤の実力ではメダルを狙うのは難しい。メダルを目指すなら、モスクワ世界選手権で銅メダルを獲得した福士加代子、同4位の木崎良子、北京では失速したが、24歳の前田彩里の方が期待値は大きい。日本の女子マラソンは、微妙な選手で貴重な1枠を使ってしまったことになる (P29-30)と実名をバンバン挙げながら厳しい指摘を連ねている。
残念なことに著者の悪い予感は的中してしまい、リオ五輪女子マラソンでは全く先頭集団に絡めないまま、順位は福士の14位が最高で、伊藤は46位に沈んだ。
同大会では男子マラソンも入賞圏内に入れず惨敗だった。このままマラソン・ニッポンは衰退の一途をたどっていくのだろうか?
たしかにいま日本のマラソン界は厳しい環境に置かれているが、その一方でかすかな光明も見えている。それは、トラックで活躍する若手選手が成長していることだ。
著者は東京五輪で活躍が期待されるタレントは少なくないと述べ、男子は設楽や大迫に加え、佐藤悠基、村山謙太、紘太ら。女子は前田や鈴木亜由子らのプロフィールを紹介しながら、有望な選手が着実に育っていることを教えてくれる。
なるほど、たしかにタレントは揃っているようだが、育成や選考は従来通りで問題ないのだろうか?
著者は駅伝を中心とする年間スケジュールや、冬場に行われる複数の選考会は、夏の国際大会につながらないことを指摘するだけではなく、国際的に活躍するトップアスリートの「帰化」を提言してみたり、東京五輪で箱根駅伝の5区をマラソンコースに使用せよ (P177)とも提案している。
突拍子もないアイデアではあるが、箱根の5区で活躍しても大成しないという批判を逆手に取り、学生ランナーにとっても良き目標になるのは間違いないだろう。
いささか居酒屋談義のような思いつきにも聞こえるが、駅伝やマラソンに詳しい著者だからこその指摘は的を射ており、文章も軽妙で心地よい。
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