2013年の福岡国際マラソンには、現役とOBを合わせ東大関係者が13人も出場していたという。
出場資格が厳しいこの大会にこれほど大勢の関係者を送りこむことができる大学は珍しいはずで、もしかしたら箱根駅伝に出場している長距離強豪校と呼ばれる大学関係者よりも多いのではないだろうか。
そんな意味では、勉強や仕事に多忙なはずの東大関係者が、なぜマラソンで活躍できるのかに興味をひかれるランナーは少なくないだろう。
もちろん私もそのひとりで、多忙な彼らがどのようにしてモチベーションを保ち、練習時間を確保し、そしてどのような練習をしているかを知りたくて本書を手に取ってみた。
著者はかつて東京大学在学中に、箱根駅伝の学連選抜チームの一員として出場したことで話題になった文武両道ランナーだ。
卒業後は実業団で競技を続けていたものの、集団での練習になじめずオーバーワークに陥り、退部に至ったというが、フルタイムのサラリーマンとなった後も走ることを続け、マラソンの自己ベストは2時間13分38秒という非常にハイレベルな成績を収めているから驚かされる。
偶然にも本日(2014年12月7日)行われた福岡国際マラソンにおいて、序盤から積極的にペースメーカーにつき果敢に集団を牽引する見事な走りを披露しており、実力は日本トップクラスだ。
本書は、集団練習を強いられた実業団時代と、自ら練習を組み立てていた学生時代を対比させながら、自ら考えながら自分に合った練習をすることがどれほど重要なことであるかを説いている。
では、自ら考える練習とは具体的にどのようなことなのだろうか。
この点について著者は、言われる通りの練習や、ランニング雑誌に掲載される練習メニューを真似するだけの練習には批判的で、それらを参考にしつつも自分なりにアレンジし、自分の体と対話しながら柔軟に練習メニューを組み立てていくことを勧めている。
たとえば、一度決めた設定タイムや距離であっても、走りだして体調が優れなければ練習強度を下げるべきであり、その方が翌日以降の練習に支障を及ぼさず、長い目で見れば有効だと語っている。
なるほどこうした考え方には、実業団の集団練習になじめなかった著者の経験が大いに生きているようだ。
その一方で、たしかに総論としては同意できるのだが、はたして本書はどのようなレベルのランナーを対象にしているのだろうか?
サブスリー(3時間以内)を狙うランナーであれば、インターバル走のようなスピード練習よりは長距離持続走が中心になると思うが、著者はフォームが崩れるリスクがあるという理由からLSDには批判的だ。
ゆっくり長く走ることでフォームが崩れることを気にするのは、著者のようなサブテン(2時間10分以内)を狙うトップクラスのランナーぐらいではないだろうか。
そもそも、「東大式」と銘打ち、13人もの東大関係者が福岡国際マラソンに出場している事実を大々的に紹介しているのだから、彼らの多様な練習スタイルが紹介されているかと期待したのだが、著者の個人的な考え方を紹介しているに過ぎない。
実業団に所属せずにトップクラスの走力を保っている点で、川内優輝と並び活躍を期待したいランナーのひとりではあるが、残念ながら本書は看板に偽りありで、内容も薄く期待外れだった面は否めない。
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