著者 |
朝原宣治 |
出版社 |
幻冬舎新書 |
出版年月 |
2009年1月 |
価格 |
\740(税別) |
入手場所 |
bk1 |
書評掲載 |
2009年6月 |
評 |
★★★☆☆ |
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昨年(2008年)に行われた北京オリンピックで、スプリント種目で悲願のメダルを獲得した、男子4×100mリレー。アンカーを任されたのは、本書の著者でもある朝原宣治だ。 当時、36歳という年齢は、一般的にはスプリント競技の肉体的ピークを過ぎていると言ってよいと思うが、若手の勢いに決して引けを取らないパフォーマンスを我々に見せてくれたことは記憶に新しい。 数々の国際大会を経て、何度も引退を決意したことがある彼が、どうしてここまでモチベーションを維持できたのか、そして、肉体の衰えを感じさせないためのトレーニングとはどんなものなのか。陸上競技だけでなく、すべてのアスリートに役立つ考え方が満載の一冊だ
ところで、大学スポーツといえば、昔も今も東京六大学を始めとした関東の人気が高いのだが、朝原は高校チャンピオンとして名を馳せていたにもかかわらず、指導者の少ない関西の大学を選んだ。もしかしたら、朝原の原点はこのあたりにあるのかもしれない。 というのも、本書を通じて貫かれている哲学として、「セルフマネジメント」という言葉が随所に登場する。 社会人になって、ドイツやアメリカへ留学してからも、「練習方針やメニューなど、トレーニングのシステム以外の、最終的な動きや感覚は選手が自分でコントロールするもの 。(P114)」と、コーチに依存しすぎることに警鐘を鳴らしている。 コーチから距離を置きつつ、自分に合ったトレーニング方法を試行錯誤しながら理想を追う姿は、彼が本書で述べているように、まさに「陸上道」を探求しているように映る。 とにかく、常識にとらわれずに、どんなトレーニングにおいても考え尽くすのが彼の哲学だ。
そんななかで、本書を読んでいて、ユニークだと思った考え方が、彼のウエイトトレーニングに対する姿勢だ。 一般的に、ウエイトトレーニングは、競技における出力を高めるために、当然のように行われるトレーニングの一つだ。だが彼は、それに対して疑問を持ち、「僕の競技人生は、スプリントにおけるウエイトトレーニングの効果を追求することに、かなりのエネルギーを割くことになっていきます 。(P96)」と長い間悩みつづけた。 そして、30歳を超えたあたりから、「筋力がアップすると体の疲れがとれやすくなる 。(P111)」と、ウエイトトレーニングの効果が、「ホルモントレーニング 」にも求められると考えている。
そのような考え方は、やみくもにバーベルを挙げていただけでは決して辿りつかないだろうし、よほど独自に勉強していたのだろう。 それ以外にも、「体幹」や「軸」を意識したトレーニング。また、いわゆる「一発屋」な選手に対する考察など、長年に渡って陸上競技に関わってきた名選手ならではの造詣深い記述が満載で、自分の身体について考え直させられるきっかけになりそうだ。
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