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日本人の足を速くする

日本人の足を速くする
著者 為末大
出版社 新潮新書
出版年月 2007年5月
価格 \690(税別)
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2007年7月
★★★★☆

 400mハードルでは日本人として初めて世界選手権でメダルを獲得(しかも2回!)。中学時代からその才能は注目され続け、いまや大阪世界選手権、北京オリンピックでのメダルの期待も高まる、日本を代表するトップアスリートによる著作。

 自身が陸上競技、特にスプリント種目に魅せられていった経緯から、中学時代の活躍と高校時代の挫折や苦悩について回想し、専任コーチが不在の中で試行錯誤して見出してきたトレーニング方法を紹介しながら、速く走るためのコツをとてもわかりやすく教えてくれる。
 これらは一見すると今までの常識を覆すかのようなものもあるが、日本人が欧米人との体格の違いがあることを前提に置き、欧米人と同じトレーニングは日本人には向いていないと断言し、理路整然と自らの哲学を語っていく。
 そして、それらは決して難解で面倒なものではなく、いつでもどこでもできることばかり。
 ちょっとした意識改革によって速く走れるようになることを教えてくれ、コンパクトな内容ながら、とても勉強になる。
 たとえば、走るということは「コケそうになるのをこらえる、という感じで走る」。「落ちているものを拾いにいこうとしてコケそうになり、それをこらえて一生懸命足を前に出している感じ(P24)」など、例え方がわかりやすい。

 すでにトップアスリートとして活躍している選手には、やや物足りなさを感じる内容かもしれないが、陸上競技を始めたばかりの小・中学生や、マラソンブームで最近走り始めた中高年ランナーに、「走り」の基本を教えるにはもってこいだ。

 ハードルが専門の著者だけに、それに関する技術論も登場するが、比較的マイナーなこの種目が、いかに奥の深いものであるかを教えてくれる一冊でもあり、さすがに日本陸上界の「広報部長」を自任するだけのことがある。
 特に、最終章「もっと陸上を!」は、彼の競技に賭ける情熱が伝わってくる内容で、とても共感できる。
 大阪世界選手権を数ヵ月後に控えたタイミングで出版された本書が、多くの人に読まれてほしいと願わずにはいられません。

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