著者 |
後藤正治 |
出版社 |
文春新書 |
出版年月 |
2003年12月 |
価格 |
\700(税別) |
入手場所 |
bk1 |
書評掲載 |
2003年12月 |
評 |
★★★★☆ |
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「日本マラソンの父」と呼ばれる、金栗四三選手からはじまり、孫基禎、田中茂樹、君原健二、瀬古利彦、谷口浩美、有森裕子、そして今をときめく高橋尚子選手にスポットを当て、マラソンニッポンの歴史を紐解いていく作品で、内容はとてもマジメ。
前述の8選手の他にも、宗兄弟、中山竹通や森下広一選手といった名ランナーももちろん作品中に登場するが、終始一貫して登場するのが「円谷幸吉」選手だ。 「円谷選手の生きた時代」と、それぞれの選手の活躍した時代を照らし合わせながら歴史を眺めていく、それがこの本のテーマと言っても過言ではないかもしれない。 「お国のために」走らなければならないプレッシャーと戦い、自殺するまでに至ったメダリストを、彼らはどのように感じているのだろう。それを探っていくことは、あとがきにある著者の言葉を借りるとすれば、まさに「日本人の精神史」と言えるのかもしれない。
陸上競技の一種目に過ぎないマラソンは、古代の故事をもとに誕生したという、ロマン溢れた歴史を起源にしている。 それだけではなく、マラソンランナーはどこか他のスポーツ選手とは違う(と思われている)。 ひたすら苦しさに耐え、しかも性格は内省的で感情を表に表すことは稀。禁欲的な生活を常とする、いわば修行僧。 円谷・君原選手から、宗・瀬古・中山選手らが活躍した“男子マラソン黄金時代”のイメージが、典型的なランナー像となっているのかもしれないが、一見無口に思える彼らが、実は「内面を豊かな言葉で表現しうる人たち」であったことに著者は驚き、そしてそんなマラソンランナーに魅せられていったのかもしれない。 この作品は、オリンピック前になると、続々と出版されるマラソン雑学本とは一味違う。 マラソンの歴史は時代を映す。この本を読んでいると、そんなことを感じずにはいられない。
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