著者 |
小出義雄 |
出版社 |
中公新書ラクレ |
出版年月 |
2009年3月 |
価格 |
\720(税別) |
入手場所 |
bk1 |
書評掲載 |
2009年5月 |
評 |
★★★☆☆ |
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「マラソン界の名将」と聞いた時に、まず誰を思い出すだろうか? 陸上競技に造詣が深い者ならば、中村清や宗茂などを思い浮かべる人も少なくないかもしれないが、小出義雄ほど著名な指導者は過去に例がないだろう。 特に、女子マラソンの世界においては、有森裕子、鈴木博美、高橋尚子ら、ワールドクラスの選手を次々に育成し、1990年代後半にはもはやこの人なしには日本の女子マラソンを語ることなどできやしない。
小出の真骨頂は「ほめて育てる」ことで、マスコミや著作を通じて広く知れ渡り、ビジネス書のテーマともなっている。 本書の主たるテーマも、指導者として、選手や部下をどのように育成してゆくのかに関するエッセンスが凝縮されていて、「ほめる」ことの大切さについても分かり易く説いている。 いや、それだけではない。 小出は、本書のなかで教育論にも熱く語り、親のしつけや学校教育の功罪について、危機感を募らせている。そして結局はそれらが子どもの性格を形成し、大人になっても素直で謙虚な性格の選手ほど、競技においても大成することを知っている。 とりわけ、いまの子どもたちにこそスポーツの必要性を説いた、P101以降の数行は心を打たれ、何度も読み返してしまった。 曰く、「当時に比べて、いまの時代は格段に裕福になった。けれど、子どもたちがどうも幸せそうに見えない。 (中略)結局は、豊かすぎて、感謝するとか、満足するとかの気持ちがないからだと思う。逆に不幸なことではないか。 」と述べ、スポーツをすることで感謝のこころと、満足のこころを学ばせる必要を熱く語っている。 そしてなにより、理屈だけではない、ヒトとヒトとのつながりをとても大切にしていることが全体を通して感じられ、まるで小出の人柄がにじみ出ているように優しく、温かみのある文章だ。
本書は、名伯楽の心に響くポリシーの数々が、見開き2ページほどに凝縮され、サクサク読めてしまう。 スポーツ関係者だけではなく、普段はあまり本を読まないような人にも、手軽に手に取ってもらいたい内容だ。
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