著者 |
金哲彦 |
出版社 |
講談社現代新書 |
出版年月 |
2010年2月 |
価格 |
\800(税別) |
入手場所 |
紀伊国屋書店 |
書評掲載 |
2010年3月 |
評 |
★★★★☆ |
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「(またこの人か・・・)」 書店のランニングコーナーにずらりと並べられた数々の書籍のなかでも、金さんによる著作点数は群を抜いていて、さすがに食傷気味だ。 しかし、本書はこれまでの内容とは大分趣向が異なっている。 本書は、「金哲彦(木下哲彦)」のこれまでの生涯を振り返り、その壮絶な人生を世に問うている優れた自伝だ。
金さんといえば、多数の書籍だけでなく、マスコミにも頻繁に登場するなど、ランナーにとっては非常に知名度の高い方だ。 そのイメージは非常に明るく、ひと昔前の寡黙な競技者像とは一線を画し、とても好感を抱きやすい。 しかし、笑顔の似合うそんな著者にも、深い苦悩や挫折、そして死の淵をさまよった経験をも有していることを、私は本書を読んで初めて知った。
本書から伝わってくる著者の人生は、マスコミを通して伝えられる姿とは対照的で、暗い話題が多いのだが、そのような苦しみぬいた経験が今に生きていることは、本書を読んでいると、容易に推測がつく。 裕福とはいえない家庭の末っ子ながら、浪人覚悟で陸上競技の名門・早大を志す高校時代から、新興企業で陸上部を設立し、自ら広告塔となって活躍する姿を見ていると、とても意志が強く、自らの人生を自分で切り拓いてゆこうとする信念が伝わってくるようだ。 本書にはこのような著者の人柄を表すようなエピソードが満載だが、一貫して登場する話題が、国籍の問題だ。そして、これが著者を語るうえで、欠くことのできないテーマとなっている気がする。
彼はなぜ、尊敬する恩師「中村清」に反旗をひるがえしてまで「木下」の姓にこだわり、そしてなぜその後、自らの意思で「金」を名乗るようになったのか。 軽いテーマではないだけに、読んでいて胸が締め付けられそうになるのだが、生きる意味を、走ることによって見出してゆく著者の哲学が、本書には凝縮されている。 言うまでもなく、著者は市民マラソンがまだ人気がない時期に、いち早く市民ランナー指導専門のNPO法人を設立し、今日のランニングブームに大きな貢献をしている。 そんな精力的な活動の裏には、ランニングによって人生の道を拓き、ランニングに育てられたという想いから、もっとランニングを世の中に広めたいという想いが伝わってくるようだ。
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