Sports Graphic Number誌を読むにつけ、いつかこんな写真を撮ってみたい、とスポーツ写真に憧れを抱きはじめたのは、おそらく学生時代だったと思う。
トライを決めたラグビー選手の雄たけびや、汗が飛び散るボクシングの激しいつばぜり合いなど、一瞬を切り取るスポーツ写真の魅力に取り憑かれた。
アルバイトで貯めて購入した一眼レフカメラ(銀塩フィルムの時代だ!)を、競技会のたびに遠征バッグに詰め込み、シャッターを切り続けたことは、懐かしい思い出だ。
躍動する同僚の競技シーンを現像すると、彼らが破顔しながら、「ぜひまた撮ってください!」と目を輝かせてくれることが嬉しく、スポーツ写真は私にとって、撮影の腕を磨き、被写体であるアスリートと交流を深める、絶好の機会だった。
そんなスポーツ競技会での写真撮影が、いま岐路に立たされている。
ここ数年、女性アスリートの盗撮問題が、新聞のスポーツ面や社会面で取りざたされることが気になっていた。
本書によると、それらの記事は、本書執筆陣による配信が基盤になっているそうで、これが波紋を呼び、共同通信の一報から世の中は大きく動き出した (P62)。
たしかに、当事者が同意しないインターネットへの拡散や、赤外線搭載カメラによるユニホーム透視 (P45)、そしてそれらの画像が販売・流通されている被害 (P153)などが言語道断である点は論を俟たない。
しかしながら、本書の内容はやや狭窄的すぎるように感じた。
たとえば本書では、体操競技で肌の露出を抑えた「ユニタード」と呼ばれるボディースーツ の登場を、少なくとも5つの異なる場面で紹介(P11、67、148-149、250、275)するが、その一例のみをクローズアップし、世界中のアスリートがこの問題に対して声を上げ始めたと主張するのは、時期尚早だろう。
また本書では、競技会場で真剣にカメラを構える人物をカメラ小僧 (P253、285)と侮蔑し、がっしりとした高性能のカメラを構えた中高年の男性の方々 (P116)を一律に忌避すべき対象として描写する。
これら一方的な印象操作が、はたして真に公正なジャーナリズムと言えるのだろうか。
たしかに著者らの積極的な取材活動は、この問題を世に知らしめ、盗撮被害の減少にはつながるのだろう。
事実、2021年の陸上競技・日本選手権より、警察と協力し、盗撮が疑われる不審な行為を観客が見つけた場合、会場内に掲示されたQRコードから専用サイトに接続して主催者に通報する仕組みの「ホットライン」 (P302)が導入されたことを誇らしげに紹介してくれる。
その一方で、純粋にスポーツ写真を撮影したいファンの意見は本書に全く紹介されず、冤罪という別の被害者を生んでしまうリスクは考慮されていない。
トホホ。
高性能のカメラを構えた中高年男性である我々が、不審者と間違えられないようなマニュアル策定が、次なる課題になりそうだ。
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