今年(2019年)も箱根駅伝予選会が終わり、来年の本戦に駒を進める大学が決定した。
最大のサプライズは、26年ぶりの本戦出場という筑波大だ。
そもそも筑波大は難関国立大であり、一般入試で合格するにはかなりの学力が必要となる。それでいて駅伝の強化に特化した推薦制度が整っているわけでもない (月刊陸上競技 2019年12月号 P91)というチームの躍進は、本戦出場の厳しさを知る誰もが驚いたミラクルに違いない。
箱根駅伝は本腰を入れればどの大学にも出場のチャンスがあるのだろうか?
一般的にはそのような印象があるためか、箱根駅伝出場を目指すサクセスストーリーを描く小説は少なくない。
その代表的作品といえば、「風が強く吹いている」で、500ページを超える大作ながら、個性豊かな登場人物が「箱根出場」という一つの目標に向かって躍動するストーリーが話題を呼び、2007年の本屋大賞第3位を受賞し、その後は実写映画化もされた。
この作品こそは、(箱根駅伝をテーマにした小説だという点に限らず)スポーツを題材にした小説では抜群に魅力的な傑作だ。
たしかに、本戦出場がどれほど困難な道のりなのかを知っている競技関係者が読むと、現実離れしたストーリーに白々しい印象を抱いてしまいがちだが、それを補って余りある人間ドラマが、読み手を飽きさせない魅力に溢れていたことがその要因だ。
さて本書を初めて書店で目にしたとき、その鮮やかでセンスあるカバーデザインと、ファンの心をくすぐる「箱根」のタイトルに一瞬で心を奪われてしまった。
さらに、著者は過去に陸上長距離や競歩を題材にした小説を手掛けてきて、私も大好きな作家のひとりだ。
しかも、料理と駅伝という異色の組み合わせで青春小説を描いた前作の続編とあって、迷いなく衝動買いさせられてしまった。
その舞台は国立大学で、数少ないスポーツ推薦の枠を使って入部してくる選手は数名 (P13)のみで、場所は東京から電車で一時間かけて降り立った駅 に近く、国の研究機関を集めるために計画造成された街だから、人工的で奇妙な美しさ (P34)という第一印象からは、前述の筑波大を彷彿とさせ、リアルタイムな話題は冒頭からワクワクさせられてしまう。
だが、読み始めてわずかな時間で違和感を覚えてしまう。
もしかして、ストーリーは「カゼツヨ」パターンなのではないだろうかと。
本書のストーリーは、間違いなく上述の「風が強く吹いている」に酷似している。
それだけに、名作の「二番煎じ」のそしりを免れるには、その作品を上回るほどの魅力的な登場人物やストーリーが描かれなければならない。
多くの小説を出版してきた著者ならば、その覚悟があるはずだ。
伏線はどこに敷かれている? そしてどこで回収されるのだろう?
そう信じて読み進めていくのだが、なぜかその後の展開が読めてしまうイベントばかりで、オリジナリティが感じられない。
前作からの特徴でもある「料理」についても、無理やり加えた印象がぬぐい切れず、「料理」がなくても十分にストーリーが完結してしまう。
それは言い換えれば、良質の具材を使っても、それらの相乗効果を発揮させられずに凡庸な料理で終わってしまったかのようで、多くの読者が小説に期待する「サプライズ」は残念ながら見られない。
参考書籍:前作「タスキメシ」 |