オンボロだけれど、格安で賄い付きの学生アパートに、ひとりの新入生が入居してきた。 蔵原走(かける)は、高校時代に将来を嘱望されていたトップアスリートだったが、部内のトラブルによって志なかばで競技から離れ、これから始まる大学での夢や目標すらも見失っていた。
走が入居したことによって、10名になった竹青荘(ちくせいそう)には、マンガオタク、司法試験合格者ら、個性溢れる学生が揃っていたが、陸上競技とは無縁の生活を送る貧乏学生ばかりだった。 そんな彼らに格安アパートを紹介し、栄養バランスを考えた食事を提供しつづけた清瀬灰ニは、最終学年となった春に、ついに自らの夢を打ち明けた。 それは、学生ランナーならば一度は出場を夢見る「箱根駅伝」への出場だった。
ヘビースモーカーが在籍し、陸上競技どころか、スポーツ経験すらほとんどないメンバーばかりの弱小チームが、たった半年でハイレベルな予選会を通過しようという、前代未聞の挑戦が突然始まった。 初めての記録会で、5000mが17分を超えるメンバーが大半だったにも関わらず、灰ニの科学的で戦略に基づいた練習によって、着実に力をつけ、予選会が行われる10月には、多くが10000mで31分を切るという急速なレベルアップが図られていた。
陸上競技、駅伝について丁寧に取材を重ねている様子が伺え、登場人物の個性や文章表現が豊かで、ボリュームもあって読みがいがある(500P超の力作!)。
ただ、いかんせん選手が力をつけていく過程が非現実的で、予選会を通過することがどれだけ困難なのかを知っている競技経験者が読むと、とても白々しく感じ、一歩引いた目で見てしまい、いまひとつストーリーにのめり込むことができないかもしれない。
しかし、幾多の挫折や失望、苦しい練習を重ねながら、心のタスキリレーをつないでゆくメンバーの熱い絆には、心を打たれてしまい、忘れかけていた学生駅伝の本質について教えられた気がする。
※ 2007年「本屋大賞」第3位受賞作品
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