中学時代に陸上長距離に青春を捧げ、親友の山岸良太を追うように名門・青海学院高校へ一般入試を経て合格したものの、入学前に交通事故に遭い、陸上部への入部をあきらめていた主人公の町田圭祐。
そんな町田が陸上部の代わりに入部を決めたのは、まさかの「放送部」。
決してスポットライトを当てられることのない地味な文化系のイメージしかない集団はしかし、朗読やドラマ部門で真剣に全国大会を狙う熱い志を持った部員ばかりだった。
町田が想像していた控えめな活動とは裏腹に、陸上で叶えられなかった夢を、異なるフィールドを舞台に、個性豊かな先輩や同期と切磋琢磨しながらグングン成長していく姿を描いた前作「ブロードキャスト」に続くのが、本作だ。
全国大会出場を逃し、志半ばで3年生が引退して以降の場面からプロローグが始まる。
前作を知っている読者であれば、本作も放送コンクール全国大会出場を目指すことがテーマとなるに相違ないと想像するのだが、ストーリーは意外な方向へ導かれていく。
もちろん、放送コンクールで上位入賞することが一義的なテーマでもあるのだが、放送部員が選んだテレビドキュメント部門の題材は、なんと町田が志半ばで夢を断った陸上部だ。
しかも主役は、鳴り物入りで活躍が期待されている一年生・山岸良太だと言うではないか。
競争が激しい青海学院陸上部で、放送部が特定の人物にスポットライトを当てて良いのだろうか?
駅伝選手の選考に予断を挟ませることにならないのだろうか?
ジャーナリズムのあり方について議論を重ねる部員たちはしかし、同じ学校で学ぶ仲間として、全国大会での活躍が期待される彼らの姿を取り上げてみたいと決断する。
そういえば、市民マラソン大会の抽選で偶然当てたドローンの活躍も期待できそうだ。
彼らの練習風景を動画撮影していると、ランニングフォームを確認するうえでも役に立つ、と陸上部監督からもお墨付きをもらった。
だが、まさかその動画がこんな事態を招くなんて。
陸上部の部室上空を撮影していたドローンが捉えた、信じがたい映像。
これが公になれば陸上部の存続すら危うくなるに違いない。
真実を伝えるべきか、見なかったことにするべきか。
葛藤する町田らをあざ笑うかのように、ストーリーは思わぬ展開を見せていく。
本書は、ジャーナリズムとはどうあるべきか、という社会的なテーマを、プロの新聞記者の(えげつない)取材方法も紹介しながら、ストーリーのなかにうまく取り込ませている。
その点において、本書は読みながら考えさせられることが多い。
一方で本書は、放送コンクールに青春を捧げた前作から大きく方針転換し、中途半端なサスペンスストーリーになってしまっている。
場面展開も唐突で、何度も読み返さないと理解できないシーンも多い。
また、最終章で(おそらくはコロナウイルス感染症拡大に伴う)様々な活動自粛を余儀なくされているタイムリーな話題を紹介しているものの、ストーリー全体からは全く関連がなく、取って付けたような印象は拭えない。
社会的なテーマを取り上げながらも、著者が本書で伝えたいことは何だったのだろうか? 放送部員がジャーナリズムを考えるうえで忘れてはならない本質が、皮肉にも本書から見つけることはできなかった。
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