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駅伝王者青学 光と影
−青山学院大学陸上競技部駅伝チーム完全密着535日−

駅伝王者青学 光と影
著者
出版社 主婦と生活社
出版年月 2017年11月
価格 \1,300(税別)
入手場所 楽天ブックス
書評掲載 2017年11月
★★★☆☆

 大学駅伝界における話題は、いまやこのチームを差し置いて語ることはできなくなっている。
 出雲・全日本・箱根という主要学生駅伝三冠を果たし、箱根駅伝では三連覇を果たした。
 その勢いは大学駅伝の枠にとらわれず、2016年東京マラソンでは下田裕太と一色恭志が実業団選手を抑え、日本人2位と3位に入り、マラソン日本代表候補に名乗りを挙げる活躍ぶりだ。
 著者は同大学OBとして彼らの活躍に興味を惹かれ、2016年4月より集英社「web Sportiva」に2年弱にわたり連載された「極私的! 月報・青学陸上部」から、著者が特に思い入れの深い記事をまとめたルポの集大成だ。

 陸上競技経験者ではない著者にとって、箱根駅伝を目指す大学生の生活は新鮮だったようで、学生の第一印象として普通の大学生とはずいぶん違う時間を過ごしているんだな(P4)という、なんだか拍子抜けしてしまう冒頭から始まるが、関係者の本音を探るスポーツライターとしての力量が徐々に発揮されていく様子が、本書の魅力だ。
 その取材スタイルは、関係者との緊密な交流を通じ、監督、選手やマネージャーの顔と名前、そして性格まで熟知したうえで、それぞれの内面についてもあぶりだそうとしているようだ。

 箱根駅伝で優勝を争う大学ともなると、高校時代からトップクラスで活躍している選手ばかり、というイメージだが、本書を読んでいると、青山学院は意外とそのようなイメージとはギャップがあるように感じてくる。
 たしかに、いまでこそ強力なブランド力を武器に優秀な選手を揃えているが、前述の下田も高校時代は5,000mのベストタイムが14分40秒前後(P148)と平凡な選手だったという。
 マスメディアではあまり発信されないのだが、地道に練習を重ねている選手が活躍している。そして、「青トレ」と呼ばれるユニークな練習法を開発するなど、前例にとらわれないトレーニングで学生長距離界を牽引しているのが、青山学院の特徴と呼べるのかもしれない。

 一方で、5,000m13分台、10,000m28分台の選手がごろごろ在籍し、層の厚いチームであるがゆえに、実力ある選手であってもインカレや三大駅伝に、一度も出走することが叶わないまま卒業する選手も当然出てくる。
 部内基準(2年生の終わりまでに5,000m14分35秒)をクリアできずに、志半ばで選手をあきらめざるを得ない学生や、通常の寮とは待遇が格段に劣る「二寮」生活を宣言され、腐っていく学生もいる。
 実業団をも超える選手層であるがゆえの「影」を抱えざるを得ないところが、本書のテーマの一つでもあるのだろう。
 それだけに、もっと「影」の部分をグイグイ掘り下げてほしかった、というのが本書を読み終えた直後の印象だ。
 本書に期待したのは、かつての山梨学院大学黄金期に、走ることが叶わなかった学生をテーマにした走らざる者たちだったのだが、彼らが抱える内面の苦しみをえぐり出すような深みがあったそれに比して、本書は表面的な発言しか捉えておらず、毎月陸上競技専門誌を読みふける私のようなコアなファンにとっては、やや物足りない感じが残ってしまう。

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