先月、久しぶりに400ページを超える長編小説(タラント)を読み、これまで著作に触れたことがなかった作家にとても興味が惹かれてしまった。
そんな折、月刊誌「ダ・ヴィンチ 2022年4月号」で、著者が特集されていていることを知り、思いがけず没頭させられてしまった。。
なるほど「タラント」で描かれた世界にはそんな背景があったのか、と著者インタビューを拝読しながら、小説に託した著者の思いを知ることができたことは、望外の喜びだった。
また同誌では、著者の「厳選ブックガイド」も紹介してくれ、そこで知ったのが、微笑ましい短編エッセイ23編で構成された本書だ。
本書によると、人気作家として多忙な日々を送る著者ではあったが、スポーツ誌「Number」の企画で、なんとランニングへ挑戦するというのだ。
しかも、運動は嫌いだと自覚しているのに、デビュー戦(43歳!)は東京マラソンときた。
練習会後の飲み会が好きでランニングチームに入り、「いつか」マラソンを走ることができるだろうか、と漠然と夢想していたものの、10年先でいいと思っていた「いつか」は案外早くやってきた (P11)のだ。
足が重い。しんどい。退屈だ。
ヘトヘトになりながらも、なんと著者は5時間弱で東京マラソンを完走し、ふと、あれだけつらかったのに、なぜか次回のマラソンレースを想像してしまっている自分に驚かされる。
ランニングには不思議な魅力がある。
そう気づいた著者は、毎週末に10kmを走ることが日課となり、出張先にもランニングセットを持参するほど「はまって」いく。
著者は20代前半で文壇デビューするも、年長者の評論家から辛口に批評され、中年代域に対しては、心の防波堤を築いていたという。
だが、いまや著者自身がその年代に達してしまった。
年齢と精神と肉体のアンバランスを予感した著者は、40代の失恋に備えて強い心を持とう。強い心は強い肉体に宿るはずだ (P3)と、スポーツに関心を抱いたきっかけを、作家ならではの文学的表現をもって語っている。
著者が本書で紹介しているスポーツは、ランニングだけではない。
ボルダリングや登山では、これまでとは全く異なる景色が眼前に登場するではないか。
そして、著者が愛するお酒が給水という、フランス・メドックマラソンで体験した異次元のマラソン大会もまた圧巻だ。
5年間に及ぶ雑誌企画を通じ、異文化を体験した著者が、これからどんな世界観を小説で表現してくれるのか、楽しみが尽きません。
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