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山岳王 望月将悟

山岳王
著者
出版社 山と渓谷社
出版年月 2018年7月
税抜価格 1,300円
入手場所 Kindle
書評掲載 2026年3月
★★★★☆

 2012年にNHKで放送された「トランスジャパンアルプスレース」は、過酷な自然と戦う異次元のレース環境と、命を懸けて挑む選手たちの意志に心打たれ、度肝を抜かれたドキュメンタリーだった。
 その番組で最も注目されていた選手が、前回大会で優勝し、二連覇を狙う望月将悟だった。
 本書は、同大会を長らく取材している著者が、望月の強さの秘密を探ろうと、家族、知人、同僚らに取材を重ね、超人の素顔を読者に伝えてくれるノンフィクションだ。

 多感な高校時代に、けんかに巻き込まれたために高校を退学処分となった望月ではあったが、優しく真摯な性格は周囲の信頼が厚く、消防署勤務後に誘われた登山が、彼の人生を変えていく。
 それは趣味の一環というだけにとどまらず、登山が山岳救護に欠かせない経験と考えていることから、非番であっても山に向かい、遭難者が出た際にはいち早く駆け付けることができるよう、複雑な地理を熟知するほどで、まさに山岳救助隊の仕事は、自分の天職(P127)であったに違いない。

 山が好きだからこそ、山岳レースで常に上位の活躍を見せるのだが、望月は決してレースでの「速さ」を求めているわけではない。
 昔の人は、道具も装備も限られたなかで山を切り開いてくれた。その時代の人たちにどうしたら追いつけるか。今は装備やウェアも進化して便利なものがたくさん出ている。でもなるべくそういうものに頼りたくない。(中略)山岳救助の現場では、道具や装備がないことを言い訳にできない。それらを持っていけなかったり、壊れたりしたら、どうやって救助するの、と。原点に立ち戻るというか、物がなくても対応できるように、自分自身の力を高めたい(P144)と、「速さ」より『自然のなかでの強さ−どんな状況でも立っていられる、生きていける強さ』(P145)を大切にしている。

 確固たる軸があるからこそ、本書は読者の心をつかんで離さない。
 出版当時は既に40歳を超え、体力的な衰えを感じながらも、地元の「しずおか市町対抗駅伝」の40代区間で選手になりたいから、と初めて陸上競技専門トレーナー(松本真由美さん)の下で科学的トレーニングに励むなど、子どものように無邪気な向上心がうらやましくなってしまう。
 IT機器に翻弄される毎日を過ごす私にとって、自然環境を愛で、体力や技術の更なる高みを目指して行動する同世代の姿に、忘れていた大切な感情を呼び起こさせてくれるようだ。

関連書籍:
激走! 日本アルプス大縦断 密着、トランスジャパンアルプスレース
激走! 日本アルプス大縦断 2018 終わりなき戦い

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