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青学駅伝選手たちが実践! 勝てるメンタル

勝てるメンタル
著者
出版社 KADOKAWA
出版年月 2019年3月
価格 1,350円
入手場所 市立図書館
書評掲載 2019年10月
★★★★☆

 練習では強いのに、本番では実力が発揮できない選手がいる一方で、なぜかその逆のおいしい選手もいる。
 幸いなことに私はレースが近づくにつれてワクワクし、勝手ながら「本番に強い」と自称していた。
 だが練習では私より格段に走れている仲間が、ここぞというレースで実力を発揮できない姿を見て、いつも不思議に感じていた。
 メンタルが弱い!?
 一言で片づけるのは簡単だが、では「メンタル」の本質とはなんなのだろうか?
 そう。メンタルというフワッとした概念を科学的に解明し、本番に強いメンタリティを育てるためには何が必要なのかを教えてくれるのが、本書のキーポイントだ。

 本書は、青山学院大学を学生長距離界の王者と言われるまでに育てた名将・原晋と、ハーバード大学で抗加齢医学や睡眠医学を専門に研究する学者・根来(ねごろ)秀行による異色の対談なのだが、かねてより原は根来にチームのメンタルアドバイザーとして指導を仰ぐなど、強い信頼関係で結ばれている関係のようだ。
 それだけに、原がかねて指摘していた前近代的な陸上界の文化や常識の弊害を、根来が科学的視点からサポートするなど、感覚と理論がタッグを組んだ印象があり、スポーツ関係者には好奇心を刺激される内容に溢れている。

 日本の長距離界では、重要な練習局面で練習を抜いてしまうような選手は、弱いとされてきました。
 私は、彼らは強いと思う。勝つために必要な休養や、意思を持っているからです。
 ですから、私は根性論やストイックなものを尊ぶ風潮に必ずしも与しません。
 私は選手たちの「勝つメンタル」を育てるために、陸上界の発想を変えていきたいのです
(P126)と原が語るや、根来は予防医学の観点から交感神経と副交感神経のバランスこそ重要で、睡眠・休養が軽視されていることに警鐘を鳴らし、原の考え方こそ理にかなっていることを説いていく。

 では「勝てるメンタル」とはどのように育てることができるのだろうか?
 根来は勝てるメンタルを持っている人というのは、「自分の持っているスキルを発揮する土台を整えることができ、ここぞというタイミングで発揮できる人である」と私は考えます。そして「発揮する土台を整える」、「ここぞというタイミングで発揮する」ためには、まず体をコントロールしている「制御システム」を整えなければ実現しません(P144)と語り、自律神経とホルモンが二大制御システムであると、メンタルを科学的に立証していく。
 なぜなら、自律神経のバランスを欠き、交感神経が高まった状態が続けば、血管は収縮し、毛細血管に血流が行き届かない。ゆえに栄養の取り込みも老廃物の排出も滞ってしまうという説明は思わずうなずかされてしまう。
 だが本番が近づけば誰しも緊張し、気持ちが昂ってしまうではないだろうか?
 根来はそんな状態に備え、腹式呼吸を活用した呼吸法や、マインドフルネスを紹介し、副交感神経を高めるトレーニングを薦めている。
 なるほど、本書を読んでなぜ本番に強い人、弱い人が出てしまうかの理由が理解できた気がする。
 スポーツだけではなく、ビジネスにも応用できる実践的な内容が紹介されていて、これまでフワッとした言葉の影に隠れていた本質がクリアにさせられる一冊だ。

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