ここ数年、「心の病」に関するニュースが後を絶たない。
厚生労働省の直近の調査(平成25年 労働安全衛生調査(実態調査) )によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業又は退職した労働者がいる事業所の割合は10.0%と、前年調査(8.1%)より上昇しているという。
企業のグローバル展開による仕事の高度化や、コンピューターの普及に伴う人間関係の希薄化など、様々な原因が指摘されているが、いまや「心の病」は先進国が抱える社会問題と言っても過言ではないだろう。
たとえば、ヨガやピラティスのインストラクターとしてハツラツと活躍中の著者も、かつては幼少時代より「心の病」に苦しみ、社会人になってからも、うつにより小学校教諭を辞したひとりだという。
表紙を飾る、躍動感あふれる美しい姿と笑顔からはまるで想像できないのだが、著者は小中学校時代より、「頑張り」と「心の孤独」とのギャップが強くなると体調を崩すなど、心理的にアンバランスな状態が体に与える悪影響について実感していたそうだ(P17)。
こんなことをプロフィールとして書くと、まるで哲学者のような青春時代を過ごしてきたかのように映ってしまうが、著者は東京学芸大学在学中に陸上競技で全日本インカレに出場するなど、学生トップクラスの優秀なアスリートだったということは付記しておかなければならない。
東京学芸大学といえば、言わずと知れた日本を代表する教員養成系大学であり、数々の優秀な卒業生が各方面で活躍している。
また難関の国立大学でありながら、全日本インカレ優勝経験を有する女子バレーボール部、プロ選手も輩出しているサッカー部や野球部など体育会クラブのレベルは非常に高く、なかでも陸上競技部は、男女ともに日本トップクラスの選手を数多く抱えるトラック&フィールドの名門校として知られている。
文武両道の活躍もさることながら、都内有数の練習環境は他校の垂涎の的であり、今年(2014年)には全天候型の鮮やかなブルートラックが完成予定の、学生陸上界で今最も熱い注目を集めている大学の一つだ。
そんな名門校を卒業した著者もまた、陸上競技の第一線で活躍してきた経歴を持つだけあって、立ち居振る舞いが非常に美しく、「軸」を意識した身体感覚はさすが元アスリートだとうならされる。
だからといって、運動経験がなければ分からないような難解な表現は決して出てこない。
特に本書の特徴が、エクササイズの説明と、その動作のイラストをそれぞれ見開きに配置した、1テーマ2ページの非常にシンプルな構成であることだ。
写真ではなく、あえてイラストを用いたことにより、骨盤の動きや動作のイメージがよく伝わってくる。
そしてなにより、「心の病」を乗り越えた著者だからこその説得力が本書には宿っており、苦しんでいるからこそできること、苦しんだ人にしかできないことがある。 (P108)とコラムで語っているように、身体をリラックスさせるエクササイズが心を和らげる効果について、より実感することができたのだろう。
軽い気持ちで手に取った本書だったが、常にプラス思考で考える著者の一言が心に響き、前に向かって動いていこうという気持ちが湧いてくるようだ。
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