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そして、僕らは風になる

そして、僕らは風になる
著者
出版社 マガジンハウス
出版年月 2009年2月
価格 \1,333(税別)
入手場所 市立図書館
書評掲載 2009年9月
★★☆☆☆

 真夏にもかかわらず、サンタクロースの格好でさまよいながら、周囲からうとまれている不思議な中年男性が、ふとしたきっかけで難病を抱える虚弱体質の高校生のランニングコーチを始めることになった。
 腕立て伏せやスクワットは10回続けるのが精一杯。普通の人の速歩き程度のランニングしかできない小柄な少年ではあったが、彼はとてつもない大きな夢を抱えていた。
 それは、健康な大人にとっても難しい、フルマラソン完走という、周りから見れば笑われてしまいそうな夢だった。

 その一方で、サンタ自身も、心に大きな傷を負っている。
 身体は健康だが、生きる目標を失いかけているサンタと、身体機能に制限がありながらも、必死で生きようとする少年とのやり取りを通じながら、人間は周りから支えられていないと生きられないという、道徳的な訓話を溶け込ませているようだ。
 また、随所にかつての偉大なランナーの名言を引用し、単調になりがちなストーリーにメリハリをつけていて、好感が持てる。

 たしかに、マラソンをテーマにした小説としての狙いや構成はユニークなのだが、残念ながら、読者として感情を動かされる機会には、全く恵まれなかった。
 わざとらしい出会いに、うまく行き過ぎる展開。トッピング的に淡い恋愛も登場するが、ストーリーを左右するほどのエピソードでもなく、無理やり付け加えたような印象すら受けてしまう。
 また、タイトルにある「風になる」とは一体何のことなのかについても、全く意味が分からない。
 もしかして、この「風」とは、読後に感じさせてくれる「冷たい風」のことなのだろうか・・・。

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