青春真っただ中の高校生にとって、部活動は目標に向かって全力を尽くし、溢れんばかりのエネルギーを発散させる唯一無二の環境だ。
ときには先輩から厳しい叱責を受け、ときには限界まで肉体を酷使する苦しみを味わいながらも、なぜか授業の終了時間を心待ちにしてしまう。
そんな経験を持つスポーツ関係者は、少なくないのではないだろうか。
特に、私のようにフツーの公立高校で、才能の神様から見過ごされたフツーの身体能力しか有しない多くの新入生にとって、部活動を選択する基準のひとつに、「かわいい女子マネがいるらしい」という風説は、ウブな高校生の心を揺さぶるトリガーとなったに違いない。
あいにく私が入部したソフトテニス部には、創部以来、そんな憧れの存在は皆無であり、大会へのエントリーなどの事務仕事は、下級生の仕事と相場が決まっていた。
それがひょんなことから陸上部に足を運ぶようになるや、「女子マネ」が大会出場に至る事務手続はもちろん、日々の練習でタイムをとってくれたり、ドリンクを差し出したりしてくれるではないか。
それだけではない。
ときにはアイシングに関する重要性を教えてくれたり、テーピングの巻き方を実践してくれたり、選手や監督では目の行き届かない、マネージャーという第三の役割を教えてくれたことは、高校時代の懐かしい思い出であり、スポーツが秘める世界の広さを知るきっかけとなったものだ。
たしかに、近年は急速に「ジェンダー平等」が叫ばれているものの、本書の主人公・湯田咲良は、伝統的に抱かれる「女子マネ」のイメージを最大限に夢想する。
女子高生が男子にちやほやされて楽しくないわけがない。まるで女王さまのような気分だろう (P3)と腹黒い欲望を隠そうとせず、そうかと言って野球やラグビーなど、泥まみれになる活動とは一線を画し、咲良が望んでいるのは心地よさであって、多忙や我慢ではない (P5)と、献身的な態度は微塵も感じさせない。
一見すると、咲良は独善的で打算的な女子高生に見えてしまうかもしれない。
だが実は、過去に大きな挫折を味わい、それを忘れようと、もがき苦しんでいる心の動きが、徐々に明らかになっていく。
本書では、4x100mリレーに賭ける5人の個性あふれる部員と激しく意見を衝突させながら、その一方で、空回りばかりの人生を振り返り、過去の自分を責める咲良を中心に、それを静かに支える顧問教諭や先輩マネージャーとの人間関係の機微が、とても子細に描かれている。
それはまるで、青春時代にしか経験できえない、有形無形で縦横無尽につながる可能性を秘めたバトンリレーの妙技を教えてもらったかのようだ。
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