新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、開催が危ぶまれた2020年東京オリンピックが、1年の延期を経て実施された。
だが、世界各国から招くはずだった観光客の姿はなく、重々しい警備のなかでの無観客という状況で、ホスト国の我々ですら「(え、ホントにやるの?)」となんとなく疑心暗鬼になっていたに違いない。
本書は、そんな異例の環境で行われたオリンピックと同時進行で、読売新聞朝刊に連載された表題作をはじめ、スポーツにまつわる短編4作品を含む単行本。
芥川賞作家が描く短編集ということで、図書館での予約も多く、期待に胸を膨らませていたのだが、いわゆる純文学の深遠な世界観は、私が好むエンターテインメントとはやや異なっていたかもしれない。
それぞれの作品では、琴線に響く言葉がところどころに登場するものの、作品全体のストーリーが細切れで、小説の世界にどうしてもシンクロできない。
特に最初の3作品は、中国・韓国を舞台にしているために登場人物の名前が覚えられない。
名前にフリガナを振られているのは初回のみのため、何度も最初のページに戻らされてしまう。
唯一、新聞連載作となった最終章「東京花火」だけは、日本人が登場してくれて、ようやく普通に読むことができた。
ストーリーも、著者のセンスを感じさせる深みある作品だ。
優秀な父に鍛えられたものの、その期待を裏切り、卓球をあきらめた過去を持つ白瀬に対し、中学時代に受けていたいじめから脱却する術として、バレーボールに打ち込んできた宮本ら、様々な過去を持つ者たちが「異例のオリンピック」を中心に交錯していく。
まるで著者は、スポーツの持つ光と影を、登場人物を通じて浮かび上がらせてくれるかのようだ。
そのため、読んでいて楽しい作品ではないものの、最後になって本書のタイトルの意味が理解でき、さわやかな余韻を残してくれる。
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