著者 |
川島誠 |
出版社 |
角川文庫 |
出版年月 |
2003年6月 |
価格 |
\500 |
入手場所 |
紀伊国屋書店 |
書評掲載 |
2003年8月 |
評 |
★★★☆☆ |
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かつて400mハードルでインターハイ3位という輝かしい記録を作り、現在は歯科医として、そして夫として、父として、自ら“成功した人生”と語る主人公が、ふとしたきっかけからランニングを始める。 すべてがうまく回っているはずだった生活に生じていた小さな亀裂。 妻に対する不倫の疑惑を感じながらも、自身も不倫の道へと歩みを進めてしまう。そんなふたりにとって、いつからすれ違いが生じていたのだろう。 懐かしい過去にさかのぼり、現在のすれ違いと照らしながら、物語ははかなさを感じさせながら展開していく。
まるで陸上競技とは縁を切ったように思える主人公が、400mハードルを人生に見たてながら、高校時代の自分を振り返っている様子がとてもリアルに描かれている。 自ら“成功”と語る人生を手に入れた代償として失ってしまったものが多くあるのではないだろうか。 主人公のそんな葛藤が聞こえてくるとともに、人間の汚い感情や欲望と呼べるものも教えてくれるようだ。
前作「800」同様に性描写が多いが、物語の中に自然に溶け込んでいて、嫌味な感じがない。 マラソンを人生にたとえることは多いけれど、400mハードルという、またしてもマイナーな種目をテーマにしている切り口がユニークで、しかもこれまた物語の中に見事に溶け込んでいる。
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