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マラソン・マン

マラソン・マン
著者 著:ウィリアム・ゴールドマン
訳:沢川進
出版社 早川書房
出版年月 1975年5月
価格 \1,000
入手場所 ブックオフ
書評掲載 2005年2月
★★★★☆

 パーヴォ・ヌルミやアベベ・ビキラのような、歴史に残る名ランナーになることを夢見る純粋な青年が、隠し財産を巡るナチの残党らの争いに巻き込まれてゆくサスペンス小説。
 ストーリーの終盤で、厳しい拷問を加えられた青年が、隙を見て逃げ出す際にようやく自慢の健脚を発揮するのだが、タイトルから安易に想像できるような、スポーツ小説ではない。むしろタイトルが「マラソン・マン」であることには全く意味がないかに思えるストーリーに、はじめは戸惑ってしまったけれど、美しくも哀しい家族愛、憎しみと恐怖、残酷な殺傷シーン、そしてなにより、いかにもアメリカらしいスパイスの効いたユーモラスな表現が全体に散りばめられていて、ページをめくるたびに心を昂ぶらせながら、一気に読んでしまった。

 初めてこの作品を知ったのは、テレビ放送されていた映画版が先だった。「マラソン」と名のつく作品には目がない管理人としては、期待に胸を膨らませて観ていたのだが、タイトルとの関連がほとんどなく、ストーリーも理解しがたかった。
 しかしその後、原作であるこの本を発見して読んでみたところ、映画版では読み得なかった、登場人物の心理状態や細かな背景を知ることができ、再び映画版を観たときには面白さが倍増していた。
 残酷なシーンが連続するというのに、文章表現に工夫を凝らしていて、緊張感がやわらげられる場面が少なくない。
 たとえば、「(猛スピードで駆け抜ける車がカーブを曲がるときに)タイヤが悲鳴を上げた。・・・。次のカーブを曲がるときにはタイヤが抗議の声をあげた(P185)」などの擬人的な描写が、スリリングな展開にフッと一息つくリズムを作ってくれるよう。

 当時の時代を反映してか、「プロローグ」「エピローグ」を「はじまる前に」「おわったあとで」と訳している点に、微笑ましさを感じた。また、こんな昔から販促のためのオビがつけられていたことにも驚いた。
 神田に行けば定価以上の価値になるであろうこの貴重な作品が、市内のブック・オフで¥100で手に入れることができてしまった。嬉しいやら哀しいやら・・・である。

※ 2005年にハヤカワ文庫から復刊。

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