著者 |
脚本:ユン・ジノら
著:笹山薫 |
出版社 |
幻冬舎文庫 |
出版年月 |
2005年6月 |
価格 |
\480 |
入手場所 |
平安堂書店 |
書評掲載 |
2005年7月 |
評 |
★★★★☆ |
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生まれながらにして自閉症の主人公・チョウォンが、周囲の無理解や偏見を乗り越えながら成長していくひたむきな姿を描いた、韓国での実話を元にした作品。 本国で映画化もされ、日本でも公開前から話題を集めていただけに、どんな内容なのかと楽しみにしていたところ、偶然書店でこの小説版を見つけ、軽い気持ちで手にしてみた。 文庫という手頃なサイズと価格に加え、セリフ中心のコンパクトな内容なのでサクサク読むことができる。 しかしそのなかに「家族とは・・・」、「親とは・・・」、「世間とは・・・」、そして「自我とは・・・」といった哲学的な内容が随所に溢れていて、とても考えさせられることが多い。
周囲に心を開くことなく、自我が失われた息子の生き甲斐として母親が始めさせたランニング。普段は感情を表に出さない息子が、嬉々として走る姿を見て、いつしか「フルマラソンでサブスリー」を息子と約束する。 しかしある時母親は気付いてしまった。息子がマラソンを続ける理由は、母親に捨てられたくないからなのではないか。 「つらい」「辞めたい」と自己表現できない息子に対して、マラソンに生き甲斐を見出していたのはむしろ母親自身であり、それは親のエゴではなかったのか・・・ 「もうあの子には二度とマラソンはさせない」 自らを責め、そう誓った母親だったが、チョウォンは自らの意志でマラソン大会のスタートラインに着いていた。
終盤に近付くにつれて感動が高まるストーリーで、「映画を見てみたい」という気にさせてくれる一冊だ。 しかし、小説版の本書で「泣ける」かというと、ややトーンダウンしてしまうことは否めない。 映画やドラマのノベライズ版にありがちな例に漏れず、「台本」調の淡々とした記述で、表情や風景描写が乏しく、小説の世界にどっぷり漬かるまでには至らない。 だがこのストーリーに感動的な映像と音楽が加われば、間違いなく映画館では切ない感情と嗚咽を禁じえないだろう。
小説としての完成度は今一歩だが、映画版のパブリシティとして、あるいは映画の感動をもう一度味わいたい人にはうってつけかもしれない。
※ 本書は実話をもとにしたフィクションです。ノンフィクション版は、「走れ、ヒョンジン!」としてランダムハウス講談社より出版されています。
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