大学陸上部で同期だった3人が、オリンピック男子マラソン代表への最後の切符を賭けて争う。
ひとりは日本最高記録を持ちながら、故障に泣かされ続け、「ガラスのエース」と呼ばれている天才ランナー。
ひとりは4年前の代表選考会で好タイムを出しながら、周囲への悪態が過ぎるために切符を奪われた「獣」のような強気なランナー。
そしてもうひとりは、優勝経験こそないが、毎回必ず上位に顔を出す堅実なランナー。
しかし最後の彼は、自らを「平凡」と評価し、勝利に対する「欲」が足りなかった。
物語は、そんな彼に“絶対に勝てる魔法の薬”を勧める、謎の男との突然の出会いから始まる。
ある者は、勝つためにはお金を惜しまず、またある者は、周囲への怒りだけをエネルギーに、どんな手を使ってでも勝とうとしている。
そんなかつての同僚達に比べ、勝利の味を知らない彼は、ドーピングの誘惑に対し戸惑い、葛藤し、そしてある決断を下す・・・。
400ページにものぼる長編小説で、長距離走・マラソン競技についてとても深く調べられている。それぞれの人物の個性もうまく描かれていて、ストーリー性は抜群に評価できるのだけれど、小説としての完成度が低いと感じる点が気になった。
たとえば、物語の冒頭で、主人公は「薗田」と名乗る謎の男から突然の電話を受けているが、見ず知らずの人物からの電話であるのに、なぜ彼はくさかんむりの「薗田」という字面を思い浮かべることができたのだろう。
この場面ならば「ソノダ」と表記するのが適切だろうし、名刺を見てから初めて「薗田」という字面が認識できるはず。
ほんの小さな表記の違いではあるけれど、時間をかけて書き上げた一冊なのだから、こんな小さなところにも気を遣ってほしかった(それでもストレートなマラソン小説としてオススメなので五ツ星)。
※ 2006年に中公文庫より文庫化(タイトル「標なき道」)。
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