著者 |
本田直之 |
出版社 |
サンマーク出版 |
出版年月 |
2009年10月 |
価格 |
\1,300(税別) |
入手場所 |
Amazon.com |
書評掲載 |
2012年3月 |
評 |
★★★☆☆ |
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これといって取り柄の無い、さえないサラリーマン・岸田海(かい)は、小さな出版会社の営業部に勤める27歳。
会社は地味ながら堅実な売り上げを誇っていたものの、オーナー社長の思いつきで始めた新雑誌が失敗。
危機的な経営状況に陥ったなか、海は突然、次なる新雑誌の創刊準備室への異動を命ぜられてしまう。
屋上のプレハブ小屋に集められたのは、性格も考え方もバラバラで、「わけあり」な9人。
嫉妬、裏切り、そしてあきらめの気持ちが交錯するなか、ちぐはぐなメンバーは果たして、一つの目標に向かって走り出すことができるのだろうか?
小説のストーリー自体は非常に単調で、感動も高揚も感じない平板な内容だ。
しかし、節目節目で登場人物が発する言葉には、多くの啓発的な意味が込められており、自ら人生を切り開こうとする前向きな気持ちの大切さを、ストーリーのなかにうまく溶け込ませている。
特に、ゴシック体で強調された部分は、著者が特に訴えたい部分が伝わってきて、とても分かりやすいつくりになっている。
とりわけ、かつて大手出版社で有名雑誌を手掛けていたと豪語する自信過剰な営業社員に対し、「それはあなたの力じゃないんです。誰がやっても成果が出るように、仕組化された大企業の歯車だったから、成果が出た (P51)」と喝破するシーンは、他人事に思えなかった。
「うまくいかない原因を外に求めている限り、何も変えられませんよ 」、「なんでもいいから自分で変えられる部分を変えて、『とにかくやれることを実行する』 (P52)」という一文は、非常に参考になる。
一方で、タイトルにもなっている「走る」ことは、これら小説のテーマと無理やり結び付けているようで、関連性が非常に薄い。
たしかに、「ランと仕事はよく似ている。息があがってきてつらくても、自分のペースで腕を振り、足を前に出し、確実に前進していかなくてはならない (P168)」と主人公に語らせているものの、とってつけたような「おまけ感」は拭えない。
著者は自らもアスリートとして、そして経営者として活躍するだけあって、その一言一言には重みがあるものの、ストーリーが不自然で、きれい事だけを並べている印象も否めない。
自己啓発本としては工夫された内容ではあるが、ストーリーの骨子は、かつてベストセラーとなった「チーズはどこへ消えた?」とよく似ている気がする。
だが、「あり得ないキャラクター」を使って擬人化したユニークな登場人物に対して、本書は中途半端な個性、かつ中途半端な人数で、ダラダラとした退屈な内容だった。
ポジティブな思考法へ変えるために有用な言葉はたくさん散りばめられてはいるが、もう一度読みたいか、と問われると、残念ながら首をかしげざるを得ない。
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