著者 |
川島誠 |
出版社 |
角川書店 |
出版年月 |
2010年11月 |
価格 |
\1,500(税別) |
入手場所 |
Amazon.com |
書評掲載 |
2011年12月 |
評 |
★★☆☆☆ |
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小説の舞台は砂浜沿いのリゾート観光地。
3人兄弟の末っ子・沢井健は県内屈指の進学校で陸上部に所属する高校3年生。
将来を嘱望される才能あふれる選手、ではないものの、走ることが好きで、インターハイの地区大会まで進出できるほどの有力選手だ。
しかし、最後の夏は南関東大会の予選で落選し、全国大会の夢は途切れてしまった。それだけではない。高校入学時は勉強の成績もトップクラスだったのだが、最近はなぜか気持ちが乗らず、卒業後の進路も定まっていない。
この夏、一番上の兄を突然サーフィン事故で失ったという出来事もあるが、ガールフレンドとの関係がぎくしゃくしていることも原因のようだ。
一見すると、本書は高校生が中心となったひと夏の、甘酸っぱくも切ない青春ストーリーのように思えるが、登場人物らの人間関係は非常に複雑だ。
亡くなった兄、後輩のガールフレンド、そして中学時代の同級生たち。
健は彼らと性的な関係において深く結び付いている。
いや、だからといって、兄と近親相姦、かつ同性愛という衝撃的な関係ではない。
兄の妻と、そしてガールフレンドの母と一線を超え、中学時代の同級生とは酒池肉林の乱れ放題。
このような性的描写が頻繁に登場する一方で、これらの行為は主人公が愛するロング・ディスタンスとは全く話題が交錯せず、一体本書のテーマが何なのか全く分からない。
たいして熱心に練習もせずに県大会を軽やかに突破し、一方では誘われるままに何人もの女性と当然のように寝てしまう。
かといって徹底的に遊んでいるわけではなく、能動的な行動は皆無で、流れに逆らわずに生きようとする体温の低さを感じさせる。
なめきっている。陸上競技を、と言うよりはむしろ人生をなめきっている。
なおかつ憤慨させられるのは、本書が「つまらなかった」ということだ。
様々なイベントが点在するものの、それらは一向にストーリーの線として絡み合わず、絡み合うのはもっぱら男女の身体だけ。
ここで紹介している、陸上競技関連の書籍というだけでなく、小説としての魅力すら全く見出すことはできない。
もしかしたら、このタイトルは周回という意味の“Lap”にとどまらず、“Rap(非難、酷評)”と掛けて使っているのだろうか。
そう考えると、数々の不道徳な行動を繰り返す登場人物を表現する言葉としては的を射ている。
そして、本書に対する評価もまた「酷評」に値するのだから。
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