トップページへ戻る全作品リストへ戻る小説作品リストへ戻る

遥かなるセントラルパーク

遥かなるセントラルパーク
著者 著:トム・マクナブ
訳:飯島宏
出版社 文藝春秋
出版年月 1984年7月
価格 \2,000
入手場所 ブックオフ
書評掲載 2004年9月
★★★★☆

 優勝賞金36万ドルを懸けて、アメリカ西海岸の大都市・ロスアンジェルスから、東海岸のニューヨークまでの大陸横断マラソンが行われた。その距離なんと5500kmに及ぶ、壮大なウルトラ・マラソンレースだ。
 舞台はロス五輪を翌年に控えた、1931年のアメリカ。大恐慌後の不況に喘いでいた、暗黒の時代だ。
 怪しい興行師・フラナガンによって企画されたこの大イベントに、莫大な賞金目当てに、世界中から集まった2000名のランナーが挑んでいくのだが、彼らの先には、過酷なレース環境だけでなく、このイベントを失敗に終わらせたいと考える大物政治家らの手によって行く手を阻まれ、資金難の憂き目にも立ち向かっていくことになってしまう。
 幾度となく襲われる困難を乗り越えていくなかで、金の亡者として描かれていたフラナガンは、いつしか熱い情熱を持った、義務感の強い紳士へと姿を変えていく。そして賞金だけを目当てに集った選手たちもまた、レース中に滞在する各地で興行に参加し、レースに必要な資金を稼ぎながら、互いに深い友情を育み、誰も成し得たことのない大陸横断マラソンを成功に導いてゆく。

 あまりに壮大なストーリーであるために、レース中盤は読んでいて退屈に感じてしまう場面が少なくないが、実はこの退屈なストーリーのなかで、選手たちの友情が育まれ、感動的なエンディングを彩る伏線が張られていたことに、最後になって気付かされた。
 500ページ近くに及ぶ大作で、実在と架空を織り交ぜたイベントや人物たちが、リアリティあるストーリーを彩っているが、登場人物が多く、その人物描写がやや乏しいために、序盤は彼らを思い出すことに苦労させられる。
 だが、名作と称されるだけあって、登場人物に語らせるセリフのなかには、心に響く言葉も多い。
 なかでも、フラナガンが絶望に陥ったタイミングで、ラジオから流れてきた福音伝道家の言葉「地獄とは何かごぞんじでしょうか、ラジオをお聞きのみなさん? では、お話ししましょう。地獄とは夢のない人生であります。・・・」と続く数行は、フラナガンだけでなく、読んでいる者の心を動かすに十分だろう。

※ 追伸:この本を読んでいる時期に、東京都が日本初の賞金マラソンレースとなる、大都市マラソンを計画しているというニュースが報道された。奇しくも、賞金レースを舞台にしたこの本(正確には日本語訳版)が出版されて、ちょうど20年目に当たる今年、ついに日本でも賞金レースが実現に向けて動き出そうとしている。

トップページへ戻る全作品リストへ戻る小説作品リストへ戻る