少子化で生徒が減少するなかで、生徒数が少ない小規模な学校では部活動を維持することも大変な様子だ。
たとえば、一部の強豪校を除き、中学・高校のチームスポーツでは単独チームを組むことができずにいることも珍しくないようだ。
本書の舞台もその例に漏れず、郊外の小さな中学校で駅伝大会に臨もうとしているのだが、必要なメンバー6名に対し、長距離部員はわずか3名と、出場すら危ぶまれていた。
しかも昨年度まで指導してくれていたベテランの熱血顧問は他校へ異動となり、新任顧問は陸上ド素人で運動音痴の美術科教諭ときた。
これは弱った。
これまでブツブツ言いながらも、「怖い」ことで規律が保たれていた部の雰囲気が緩み、多くのメンバーに不安と動揺が走るなか、部長の桝井だけは一切動じることなく、きびきびとメンバーに指示を出す一方で、残りのメンバー集めにも奔走していく。
もちろんメンバー集めはそう簡単にいかないのだが、なぜ彼らが走ることを拒んでいるのか、その心理的背景が非常に丁寧に描かれ、後半のストーリー展開にも大きく影響を与えている。
それだけではない。
単調なストーリーが展開するかと思われていた序盤だったのだが、徐々に彼らが人には言えない悩みを抱えていることが分かり、それら心理的葛藤がストーリーにうまく絡んでいる。
そして彼らの過去は、駅伝大会本番で、自らの区間を走りながら回想していくことで明らかにされるのだが、これがまた他のメンバーと接点があることばかりで、タスキリレーに込める重みがグッと増してくる。
中学生という精神的に不安定な様子を上手に描き出し、メンバー間の人間関係のつながりを巧みにストーリーに溶け込ませた点で、非常に完成度が高い小説だ。
ただ、せっかく駅伝という舞台をテーマにしたのだから、走る際の息遣いを感じられるような描写がもっとあれば、より臨場感が得られただろう。
区間後半の苦しい場面でも淡々と過去を回想してしまっていて、「がんばれ!」と応援したくなる場面が少なかったように感じる。
そんな意味では、あと少し、もう少し! |