「スポーツ感動物語」5 挫折からの復活 |
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2003年11月に行われた、東京国際女子マラソン。 高橋尚子は、翌年に行われるアテネオリンピックの選考会において、レース後半でまさかの失速。代表に選ばれることも叶わず、走ることからも逃げ出したいような、長いトンネルから抜け出せずにいた。 それだけではない。 そこからさかのぼること4年ほど前の1999年には、セビリア世界選手権直前に脚を痛め、シドニーオリンピック行きのシナリオを大きく狂わせてしまった。 かつてないほど調子が優れ、優勝候補というだけでなく、当時の世界最高記録の更新は間違いない、とまで期待されていただけに、気持ちを切り替えるためには大きな時間がかかったという。 そんな何度となく訪れる試練を乗り越え、復活するアスリートたち。まるでドラマのように起伏にあふれた歩みの数々が、本書に紹介されている。 10代の頃から「天才」と騒がれ、長らく女子テニス界の女王に君臨したマルチナ・ヒンギスは、徐々に狂ってゆく歯車を修正できずに、20代前半で引退宣言をした。 金メダル確実と騒がれつづけた、女子柔道の田村亮子は、バルセロナ、アトランタと2大会連続で無念の銀メダルに終わった。 しばしば胸が締め付けられそうな思いに駆られる場面も紹介されているが、ここに登場する著名な人物に代表されるように、トップに立つアスリートは、すべからく深い挫折を経験している。 しかし、そこから復活した後は、以前よりも遥かにたくましく見える気はしないだろうか。 本書は、ジュニア世代向けの短編集となっている。漢字にはルビが振られ、優しい書き方であるために、スッと心に入ってくるように共感できる。 おそらくは対象年齢の読者にとって、人生の挫折など、ほとんど経験していないだろう。それだけに、一度くじけてしまうと、気持ちの切り替え方はやすやすと見つけられないはずだ。 でも、テレビに出ているような有名選手であっても、これだけ挫折と復活を経験しているのだという姿を知れば、勇気づけられてしまいそうだ。 もっと他のことも経験したいと言い、一度はテニスコートから離れたヒンギスは、3年後に再びファンの前に姿を見せ、見事に世界ランク1桁まで復活した。 金メダルから見放されていたかに思える田村は、シドニーオリンピックにおいて見事に「初恋の相手」と巡り合えた。 そう、数々の失敗を重ね、糧にしてゆく姿は、決して私たちと変わらない、普通の人間なのだということを、教えてくれるようだ。 |