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プロフィール
−アスリート・ビジネス 父子の決断−

プロフィール
著者 増田晶文
出版社 講談社
出版年月 2009年7月
価格 \1,500
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2009年8月
★★★★☆
 日本には報道の自由がある。
 そんな言葉を、これまで疑いもしないで信じていた。ましてや、多数の放送局や新聞社が報道合戦を繰り広げているスポーツ界にあって、選手の真実が伝わらないはずがない。
 そう思い込んでいたのは、大きな誤りだったのかもしれない。
 たしかに、ある面では「真実」の姿が伝えられているのだが、ここに登場する著名アスリートにとっては、都合の悪い情報は決して伝わることがないシステムになっているらしい。
 これはまるで、いわゆる「大本営発表」や、政治団体に対する「検閲」さながらの情報統制だ。

 それでは、アスリートにとっての「大本営」とは、一体どこなのだろうか。
 それは、彼らのスポンサー決定から肖像権までを一手に掌握する、マネジメント会社や代理人だ。
 著者は、スポーツが競技以外の場面で「コンテンツ」として利用され、アスリートがタレント化している昨今の状況に違和感を覚えながら、本人はもちろん、彼らが育った土壌を丹念に取材している。なかでも、著者が注目したのが、彼らの父親の姿だ。

 たとえば、ゴルフの石川遼を例に取ってみよう。彼は、高校生にしてプロツアーに優勝するや、男子プロゴルフ界の人気を牽引する新星として、活躍が大いに期待されている逸材だ。
 実力もさることながら、テレビを通じて届く、あの爽やかで堂々とした会見や、礼儀正しさには感服してしまう。よほど家庭での教育が行き届いているのだろう、というのが衆目の一致するところだが、ゴルフ専門記者らから聞こえてくる父親像は、かんばしくない。
 息子のマネジメントに全権を有し、スポンサーとの契約でも計算高いしたたかさを見せる。お気に召さない報道がされれば、夜中でも番記者を呼びつける強気な姿勢は、報道されている息子に対するイメージや、数々の美談とは対照的だ。
 まるで、息子の報道は、父親によって作られた戦略的な偶像に過ぎない、とでも言いたげな、センセーショナルな記述が次々と飛び出してくる。
 ちなみに、これらのネガティブな話題が表立って報道されることはない。父親の機嫌を損ねれば、息子の取材に支障が生じるのは明白だからだ。

 本書には「序章」に登場する室伏広治を含め、12名の著名アスリートが登場する。なかでも、際立って特徴的な話題は、元プロサッカー選手の中田英寿にまつわる、尋常でない報道規制だ。
 彼のマネジメント会社は、出身校の教諭にまで緘口令を敷き、「商品」のイメージに傷をつけさせかねない報道への予防線を張り巡らせている。これは一体、どこの国の話なのだろうかと疑ってしまいそうになり、にわかに信じがたい話題ばかりだ。
 むろん、本書は芸能週刊誌の連載記事を加筆修正しただけあって、匿名の「専門紙記者」や「親しい知人」など、出所が怪しい伝聞が多く、また、著者の妄想的とすら言える推測も少なくない。
 だが、報道されるアスリートの姿はあくまで断片でしかなく、ジャーナリストがジャーナリズムを放棄している現実に気付かせてくれただけでも、本書の果たした功績は大きいだろう。

 なお、陸上関係では前述の室伏と、高橋尚子が登場している。もちろん、本章に登場する高橋の方が紙幅を利かせているが、室伏に関する話題の方が、本書のテーマを明確に示唆していて、序章だけでも読む価値がある。

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