著者 |
沢木耕太郎 |
出版社 |
集英社 |
出版年月 |
1998年5月 |
価格 |
\1,600 |
入手場所 |
ブックオフ |
書評掲載 |
2003年3月 |
評 |
★★★★★ |
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100年を越える近代オリンピックの中で、最も政治的に利用された大会と言われたベルリン・オリンピックだが、それを描いた映画「オリンピア(民族の祭典・美の祭典)」は、今なお記録映画としての最高傑作として評価が高い。 本書は、その「オリンピア」の世界からベルリン・オリンピックを振り返るという斬新な視点で、純粋な競技としてだけではなく、大戦争前の当時の国際状況や、「オリンピア」を作り上げた、美しき女性監督を巡る生々しい人間模様をも伝えてくれる。
全体の構成は、序章と終章で監督へのインタビューを中心に、当時を振り返りながら、映画の本質を探っている一方で、中盤は様々な種目での“日本人選手のベルリン・オリンピック”を描いている。 彼ら日本人選手を追った描写は、その生い立ちからオリンピックまでの道のりに至るまで、非常に細かく深い取材がされていることがよく分かる。
特に、当時世界最高レベルだった陸上跳躍陣や村社講平、孫基禎選手の活躍、そして水泳の前畑秀子選手の際どい金メダルなど、臨場感溢れるタッチで描いていて、思わず興奮して読み進めてしまう。
一方で、世界中から絶賛された、映画「オリンピア」ではあるが、後に撮り直しがあったことが判明するなど、記録映画と呼ぶよりは、ひとつの芸術作品と呼んだ方がふさわしいかもしれない。 非常に硬い内容ではあるけれど、この本を読んだ誰もが“映画を見てみたい”という衝動に突き動かされてしまう、そんな一冊です。
ちなみに、当時は学生選手が非常に多く活躍していた時期のようだが、現在の学制とは異なっているので、専門科だの予科だの学部だの、いったいどういう位置にあるのか分からず、戸惑うことが多かったのが残念。
ノンフィクションとしての作品の質の高さにこだわった余り、読者を無視しているかに感じてしまう。注釈ぐらいはいれてほしかった。
※ 参考書籍:ベルリンオリンピック・10,000mと5,000m走で観衆を熱狂させ、ともに4位入賞の偉業を果たした村社講平の自伝・長距離を走りつづけて |