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Number1042 箱根駅伝 エースにつなげ!

Number1042
著者
出版社 文藝春秋
出版年月 2021年12月
税抜価格 636円
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2021年12月
★★★★★

 今年も無事に仕事納めを迎え、1年を振り返る余韻を楽しんでいる人も少なくないだろう。
 コロナ禍の経済は復調に至らず、政治も右往左往しつづけた1年ではあったが、新年の到来は、そんな不安をなんとなくリセットしてくれるのではないだろうか。
 箱根駅伝は、そんな我々のフレッシュマインドにスイッチを入れてくれるビッグイベントだ。
 個人的には、テレビで観戦する箱根駅伝は過剰なアナウンスが耳障りで、見る機会がめっきり減ってしまったものの、今後のマラソン界を背負って立つ若手選手の活躍は期待せずにはいられない。
 今年の東京オリンピックでも、大迫傑、中村匠吾、服部勇馬がマラソンに出場し、トラックでも三浦龍司が3000m障害で入賞する大活躍を見せてくれた。
 いずれも箱根駅伝で活躍したOB、現役大学生であり、箱根から世界を目指す大会に育ってくれていることは、大会創設者である金栗四三の狙いを見事に体現していると言えるだろう。

 とりわけ、各大学のエースと称される選手からは目が離せない。
 スポーツ専門紙Numberが、毎年この時期に満を持して出版する今年のテーマは「エースにつなげ!」だ。
 大迫と田澤廉(駒大)の対談に始まり、原晋(青学大監督)、酒井俊幸(東洋大監督)、両角速(東海大監督)へのインタビューなど、決して退屈することがない骨太の記事が満載だ。

 そういえば、前回大会では新興の創価大学が予想外の大活躍を見せ、長距離リレーレースの不確定要素を知らしめてくれたが、今年は、駿河台という馴染みのない大学が予選を突破したことが、話題を呼んでいる。
 しかもそのチームを率いるのは、かつて法政大で異端児(P60)と囃された徳本一善だ。
 本誌は特集記事を編成し、監督としてもがき苦しんだ彼の10年間を余すことなく伝えてくれる。

 おもしろい。
 毎月陸上競技専門誌を定期購読している私ですら、時間を忘れて没入してしまうほど、本誌は良質の記事ばかりだ。
 それは、スポーツというジャンルを超え、人生そのものについて深く考えさせられてしまうほどで、個人的には年末というタイミングもあってか、自身の人生と照らせ合わせながら、じっくり読みふけってしまった。
 なかでも、かつて箱根の2区で区間記録を塗り替え、将来を嘱望された選手のいまを追った漸進。三代直樹の知られざる20年(P65)は専門誌では取り上げにくい「過去の人」の人生をえぐる傑作のノンフィクションだ。
 全100ページのうち、70ページ超を「箱根駅伝」で独占する本誌を、たかが大学スポーツとあなどるなかれ。
 本誌は、陸上競技に馴染みがない読者にも、自信をもってお勧めできる必読のエンターテインメント誌だ。

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