このWebsiteを公開しはじめてから、早いもので20年が経過しようとしている。
学生の頃から陸上競技関連の書籍を貪り読み始め、もちろん当時からこの雑誌(Sports Graphic Number)は毎号楽しみに購読していたが、社会人になって以降は、めっきり減ってしまっていた。
経済や語学に関して学ぶ必要性に迫られていたことも要因だが、同誌が陸上競技に焦点を当ててくれることが少なかったこともまた、積極的に読みたい意欲を掻き立てられなかった一因ではないかと思う。
たとえば、当時から正月の国民的イベントと認知されていた箱根駅伝であっても、巻末にわずかな記事が掲載されるだけで、オリンピックや世界選手権を除けば、同誌で陸上競技が特集されることは稀だった。
あくまで同誌は、ワールドカップに挑むサッカーやラグビーなど、世界と戦う覚悟がある競技は華々しく取り上げるが、関東ローカルの学生大会なぞはそれに値しない、という同誌の矜持を感じていたものだ。
そんな日本を代表するスポーツ誌である同誌が、変わり始めている。
最近では、将棋の藤井聡太を特集し、異例の大増刷がかかったことが話題に上がったりもした。
あの「Number」が将棋を特集したことも驚きだが、陸上競技ファンとしては、大学駅伝が取り上げられることも増えてきた気がしないだろうか?
もしかしたら、出版不況のなか、伝統ある看板雑誌も読者獲得に必死なのだろうか?
個人的には、箱根駅伝を事前特集した展望記事は食傷気味であり、そのような雑誌を書店で見かけても、手に取る機会は少なくなっていたのだが、コロナ禍の自粛生活に備えて書店巡りをしていたところ、たまたまバックナンバーとして置かれていた本書に目が留まり、ふと立ち読みしてみた。
その記事と写真のクオリティたるや、さすがは「Number」とうならされるものばかりで、思わず衝動買いさせられてしまった。
巻頭は、前年度優勝の青学大を率いる原晋で、2004年に監督に就任して以降、様々な改革を断行し、常勝軍団を築くに至った過程や、「勝てそうで勝てない」駒大の闘将・大八木弘明が、学生との回路を開く努力をし (P20)、これまでの姿勢を変えようとする姿を見ていると、伝統に縛られたやり方だけではなく、現代の若者の考え方に即した柔軟なコーチングが必要とされていることを実感させてくれる。
勢いづく新興校が台頭する一方で、結果を出せずにもがいた順大の仲村明や、日体大の別府健至の、伝統校ならではの苦悩も読み応えがある。
そしてまた、様々な卒業生のインタビューが掲載されるなかにあって、撹上宏光(駒大→コニカミノルタ)や、吉永竜聖(青学大→日本生命)のように、主将として最終学年で走ることが叶わなかった人物の取材記事には、わずか数ページながら強く心を打たれ、今は一社会人として奮闘する姿にエールを送りたくなる。
圧巻は、常に学生スポーツ界で活躍を期待される、早大をテーマにした記事だ。
瀬古さんの怒気に臙脂のフェロモン (P44)こそ早稲田のスタイルと、伝統の力について語る渡辺康幸と竹澤健介は、箱根の枠にとどまることなく、世界に羽ばたいていった。
世界で活躍する人材育成のために創設された箱根駅伝だからこそ、関係者は常にそれを忘れてはならない、と同誌は訴えたいかのようだ。
そういえば、20年前はそこまで意識の高い指導者や選手は少なかったのではないだろうか?
だからこそ伝統ある「Number」が率先して従来の概念を破り、「改革者」に注目し、そして自らを変革しようとしているのかもしれない。
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