夏から夏へ |
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高校生の「４継（4×100mリレー）」を舞台にした小説「一瞬の風になれ」で、数々の文学賞を受賞した著者が、今度はノンフィクションの「４継」を書き下ろした。 今回の舞台は、大阪世界陸上へ臨んだ日本代表チームで、同大会前までの軌跡と、その後の北京オリンピックへ挑むまでの姿を追っている。 ほとばしるエネルギーを前面に出しながら、若さを武器に怖いもの知らずの者。かつての栄光が重荷になっているかのようにもがき苦しむ者。クレバーかつ冷静に競技全体を俯瞰する者。ベテランゆえの精神的な安定感があり、父親のような温かい眼差しでメンバーを迎える者。そして、スタート直前まで万全の体調管理をしながらも、走ることが叶わなかった者。 日本トップレベルの選手たちの個性の強さは、小説に登場する架空の人物と比べても、全く劣ることのない者ばかりだ。 著者は、そんな個性豊かなメンバーや、彼らを育てた指導者らも丹念に取材しながら、それぞれの育った環境、競技に対する考え方、生活環境から競技の場面以外で見せる素顔に至るまで、細かな人物描写で丁寧に描いている。 そしてまた、お互いをライバル視しながらも尊敬しあい、世界トップレベルのバトンパスの技術を磨いていく日本チームの挑戦を活き活きと描きだし、わずか40秒足らずの「４継」という種目に秘められている広大な世界の魅力を存分に引き出している。 「陸上素人」を自称する著者は、小説の取材を通して陸上競技の魅力に気付かされたというが、素人だからこそ素直な感動があり、心から彼らを尊敬している様子がみてとれる。特に、リレーゾーンの走り方やバトンパスの技術などについても、一見すると大したことのない動作が、実は高速で走る選手たちにとって、どれほど限界の世界で駆け引きが行われているのかなどについて、プロフェッショナルな技術をとても自然に解説してくれる。 本書を読むと、スプリント種目では身体的に海外選手に劣っていながらも、技術とチームワークで世界トップを狙う日本代表チームの挑戦が、明るく軽快なタッチで伝わってくる。 『−北京オリンピックへの栄光に向けて それは 大阪世界陸上から始まった−』 これは本書のオビ背面に記されたキャッチフレーズだが、北京オリンピックで、日本の男子短距離界初のメダルを獲得したことで、まさにタイムリーな内容だ。 「４継」はおもしろい！ 素直にそう感じさせてくれる内容で、ますます陸上競技が好きになってしまう一冊です。 |