世界最速の靴を作れ!
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アメリカのベースボールに魅了され、日本で野球用品の製造・販売を手がけようと、水野利八らによる「水野兄弟商会(現・ミズノ)」が創業したのは、今からちょうど100年前の1906(明治39)年のこと。 その後、同社製品は、斬新なアイデアとファッションセンスによって話題を呼び、戦前の代表的なスポーツメーカーへ急成長する。 そんな創業時代の懐かしい話題から、戦後のオニツカ(現・アシックス)、アディダス、ナイキらとの熾烈な「シューズ戦争」の勃発など、シューズメーカーの歴史を巡る旅に興味をそそられる。 その後ミズノは、抜群の宣伝効果が約束される「オリンピックの金メダル」を目標に、陸上スパイク市場に参入し、世界的大スターであるカール・ルイス選手との電撃契約から始まり、デニス・ミッチェル選手の「100m専用シューズ」。そして、いまや世界の頂点を目指そうとしている末續慎吾選手との偶然の出会いから、選手とメーカーの真剣勝負の行方までが、当事者のインタビューを中心に詳細に描かれている。 とりわけ、NHKの「プロジェクトX(00年5月16日)」でも放送されたテーマでもある、カール・ルイス選手のシューズ開発に関しては、本人の要望をなんとしてでも叶えようと、新素材の発掘や、常識外れのアイデアを捻り出しながら、「卵1個分の軽さ」に挑戦する様子が、科学的で最先端でありながらも、とても人間臭さが漂ってくるようで、心を動かされる。 また、日本人スプリンターとして初めて国際大会のファイナリストとなった末續選手について、独特のランニングフォームであるがゆえに、それに最適のシューズを開発させようとする姿が、同じ日本人として応援したいという気持ちが現れているようで、これまでとは違った感覚が、開発者たちに芽生えているような気がした。 もちろん、末續選手だけでなく、国内トップレベルの選手が揃う「ミズノトラッククラブ」の田端健児選手、谷川聡選手や内藤真人選手など、陸上競技ファンならば誰もが知っている名選手の「走りの感性」も垣間見れます。 彼らの今後の活躍に期待するとともに、チラリと映る足元にも注意してみたい、そんな気にさせてくれる一冊です。 |