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命運を決める一瞬

命運を決める一瞬
著者 中村直文
出版社 NHK出版
出版年月 2001年1月
価格 \1,300
入手場所 bk1
書評掲載 2002年7月
★★★★☆
 シドニーオリンピック女子マラソンの国内選考は、周知のごとく史上最高レベルとなり、その選考の過程には社会的な注目度も高く、いくつものドキュメンタリー特集がテレビを賑わした。
 この作品は、NHKが番組制作のために重ねた取材を書籍化したものだが、編集されたテレビ番組より、細かな取材の様子が垣間見れて、こちらの方が深みがあっておもしろい(もちろん、テレビ番組を思い出しながら読むのが一番)。

 マラソン代表として、土壇場の最終選考会を好記録で優勝した高橋尚子選手は、本番のオリンピックでも見事に金メダルを獲得したが、マラソン代表から漏れた弘山選手は、トラックの10000mに回り、決勝で最下位に沈んだ。
 あまりに対照的な彼女たちの運命は、神様の悪戯のようにも思える。だが、陸上競技という単純明快なスポーツ種目にあって、理不尽な選考制度に阻まれるドラマチックな面があるからこそ、マラソンが日本人に愛されて止まないのだろうか。この本を読んでいるとそんな気がしてくる。

 一方で、タイトルには不満だ。
 確かに、勝負(命運)を決めるのは一瞬かもしれないが、それまでの過程があるからこそ結果に反映されてくる。「一瞬」のように見えるのは顕在化された動きに過ぎず、“マラソンは一瞬で勝負が決まる”と勘違いされそうなこのタイトルは、壮大な競技の本質を見失わせかねない。

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