著者 |
橋本克彦 |
出版社 |
時事通信社 |
出版年月 |
1992年9月 |
価格 |
\1,400 |
入手場所 |
ブックオフ |
書評掲載 |
2003年3月 |
評 |
★★★☆☆ |
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いわずもがな、優れた選手には、優れたコーチの存在が不可欠である。それは、昔届かなかった自分の夢を託す“元”選手から、第三者による指導を受けられないために、独学によって自分自身をコーチと称する選手まで様々だ。 この作品は、トップレベルの選手を育てたコーチにスポットを当て、様々な種目におけるコーチたちの奮闘振りを著者によるインタビューによって探っている。
やや時代が古い作品であることに加えて、コーチたちの選手時代を振り返る記事が多く、当時の日本のスポーツ環境を知る貴重な証言も多い。 戦後の貧しい時期に、水泳が、卓球が、バレーボールが世界トップレベルであったことが、いまや想像できようか。 そんな“黄金時代”を築いた彼らには、競技種目は違えど、共通するものが多くある。
著者は、この作品のあとがきに「(勝ち負けだけでスポーツを眺めるならば)ジャンケンでもしているほうが手っとり早い」と述べ、「勝ち負けの過程こそがスポーツの魅力を生みだしている」とまとめているが、全くそのとおりだろう。 小出監督が高橋選手に3600mでの常識外れの超高地トレーニングを課し、世界の頂点に育てたように、科学だけでは説明できない練習法を考え出すコーチもいる。 時代は経れど、彼らに共通しているのは“勝つことに対する執着心”だ。 世界トップレベルの選手に比べ、現在の選手に足りないものは“ハングリー精神”だといわれて久しいが、確かにこの作品を読むと、彼らが極限状態に身を置きながら、様々な練習法を手探りで考え出していったことがよく分かる。
様々な種目を取材している反面、非常に浅い構成になっているのが残念。取材対象を絞り、もっと話を膨らませた方がおもしろい作品になったのではないだろうか。 陸上関係では、宗兄弟と、高野進選手を育てた宮川千秋コーチが登場します。 特に、兄弟の茂・猛選手が「お互いがお互いのコーチ」として切磋琢磨してきた話題は興味深い。 また、近代的なスポーツ科学をいち早く日本に取り入れた田中誠一さんを取材した最終章では、企業中心のスポーツ活動に警鐘を鳴らし、市民クラブを充実させるべきと指摘しているが、バブル期の企業スポーツ全盛の時代に、このような提言をしている先見の明には驚かされる。
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