箱根駅伝予選会が先週行われ、来年(2019年)の出場校が確定した。
距離が例年の20kmからハーフマラソンに伸びたが、大きな波乱もなく、概ね有力校が順当に予選を突破したようだが、驚かされたのは予選会でありながら地上波で生中継されていたことだ。
同時期に行われている、プロ野球のクライマックスシリーズですら生中継されない状況のなかで、箱根駅伝という関東ローカルイベントの注目度がいかに高いかを知らしめているようだ。 それだけ人気が高いため、各大学が箱根駅伝に注ぎ込む力は激しさを増している。
それに比例するかのように、チームを率いる監督も毎年顔触れが変わることも珍しくなくなってしまった。
注目されるがゆえに、プロ以上に結果を求められる職業が、本書の題材である「箱根駅伝監督」ではないだろうか?
著者は東京農業大学在籍時に日本インカレにも出場したことがある元アスリートで、箱根駅伝を選手として走った経験があるからこそ語れる当時のプレッシャーや、監督がいかにしてチームを率いているのかについて、マネジメントという観点から様々な監督に対してインタビューを敢行し、個性あふれる監督の指導哲学を存分に引き出すことに成功している。
本書に登場する監督は、別府健至(日体大)、酒井俊幸(東洋)、原晋(青山学院)、大八木弘明(駒沢)、両角速(東海)、岡田正裕(亜細亜・拓殖)、川崎勇二(中央学院)、米重修一(拓殖)、渡辺康幸(早稲田)の9名。
とりわけ、両角、岡田、川崎の3名に対する記述が私には印象に残った。
特に、佐久長聖高時代に佐藤清治、上野裕一郎、佐藤悠基、大迫傑ら超高校級アスリートを次々と輩出した高校陸上界の名将・両角の一言はズシリと重く感じた。
たとえば、売り手市場とも呼べる高校生ランナーの将来について両角は佐久長聖高校の監督時代、教え子たちの個性や性格を見極めて、どの大学に合うのか。指導者との相性なども考えたうえで、選手たちに進学先をアドバイスしてきた。しかし、反対に選手を受け入れる側になると、かなりの“違和感”があった。という。「この子がその大学に行って必要とされるのか。何も考えずに送ってくる指導者がいるということを知りました。 (中略)なかにはブランド力のある大学に送れば勲章であるかのように思っている指導者もいます (P103)。と、大学で陸上競技を行う意義について疑問を呈している。
なるほど、高校教諭を経てから大学指導者に転じたからこそ語れる疑問を上手に引き出していて、学生時代だけではなく社会人になってからも通用する人材を育てようとする気持ちが伝わってくる。
そしてもうひとり、私が注目する大学がノンブランド校 (P115)でありながら粘り強いレースを見せ、何年かに一度日本トップクラスの選手を輩出する中央学院大と、高校時代に活躍した選手がほとんどいないにも関わらず箱根を制した亜細亜大だ。
オーダーメイドの練習が多い (P161)と選手の希望や自主性を重んじる川崎に対して、岡田は自主性ほど無責任なことはない (P144)と徹底して管理する。
一見正反対な哲学のように聞こえるが、決して画一的ではなく、何よりも選手を優先し、そして地域住民からも愛されるチーム育成を心掛けている点は驚くほど共通している。
大学卒業後にアスリートとして成功する者はごく限られている。だからこそ、競技を通じて社会人として通用する能力を身につけさせたいと願う思いが、本書には濃縮されている。
なるほど、箱根駅伝は異常な人気が批判されることも少なくないが、厳しい練習を通じて自律した生活リズムを整えることや、優れたチームマネジメントを身をもって体験できることは、これからの社会に欠くことのできない経験を積むことができることは確かな事実だ。
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