中国電力陸上部は、なぜ強くなったのか |
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油谷繁、尾方剛、佐藤敦之らをはじめとして、世界に伍すマラソンランナーを多数輩出する一方で、企業にとって非常に重要な位置付けにある実業団駅伝でも、常に優勝争いに絡んでくる中国電力。 いまや日本一の長距離チームと呼んでも過言ではない彼らの歴史は、意外なほどに浅く、創部から20年にも満たない。 当初は西脇工業や報徳学園といった高校生チームにも勝てなかったチームが、'92年にひとりの男が入社してから一変した。 本書は、最強チームを率いる坂口泰監督の歩んできた軌跡を中心に、会社の上層部を巻き込みながら、手探りでチームの再生に動いてきた様子を探っている。 坂口は、エリートランナーの集う名門・ヱスビー食品で健脚を鳴らし、請われて創部間もない中国電力へ入社するも、そこには実力はもちろん、競技に対する意識の低い選手と、その程度の待遇しか用意しない会社の保守的な体質に直面する。 競技に専念できる環境が保障されていた生活から、一転して彼らの意識改革からスタート。地元の有望な高校生を地道に勧誘しながら、徐々にではあるが着実にレベルアップしていき、ニューイヤー駅伝には1993年に初出場するや、翌年には8位入賞を果たすなど、目覚しい活躍を見せていく。 早大、ヱスビーを通じて中村清監督の陶酔を受け、それに関する記述にも多くのページを割いているが、饒舌だった中村に対し、坂口は選手に多くを語らない。 時には厳しく突き放しながらも、マネージャーを通じてフォローさせるなど、きめ細かな指導を心がけ、選手やトレーナーらから絶大な信頼が預けられていることが伝わってくる。 あとがきには、企業の人材育成に携わる方々に読んでもらいたいと記されているが、それにしてはやや専門的なことに深入りしすぎという感じがする。それだけに、本書は陸上競技の指導に携わる方々にこそ読んでもらいたい。 外国人や契約社員なんぞは決して起用しようとしない坂口監督の確固たる哲学が満載です。 |