あと1秒の壁破った! |
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2003年の全国高校女子駅伝で悲願の初優勝を飾った、兵庫県須磨学園。その優勝に至る道のりには、1999年にわずか1秒差で敗れた、忘れ得ない悔しさがあった。 本書では、険しかった優勝までの軌跡を、同校陸上部監督の長谷川重夫氏を通してたどっている。 世界選手権にも出場した岡本治子選手を始め、数々の有力選手を輩出している同部の輝かしい歴史は、そのまま長谷川監督の指導者としての歴史と重なっている。 のんびりとした雰囲気の“普通の陸上部”だった高校に。わずか6年で都大路。近年は毎年のように優勝候補に名を連ねる有力校に・ ・ ・ 。 そんな名物監督の哲学や、指導方法。「あと1秒の壁」を破るためにどんな工夫を・ ・ ・など、期待に胸を ・ ・ ・。 え? イライラするからハッキリ最後まで書きなさい、って? そう、本書の文章は述語が失われていることが多く、とてもイライラさせられるのだ。 そして、肝心の内容についてもとても淡泊で、全くおもしろ味がない。 なぜおもしろくないのか考えてみたところ、本書には著者の顔が全く見えない、という私なりの結論に達した。 具体的に言うと、関係者の意見や考えと思われるカギカッコ(「 」)による文章が中心となって構成されているため、著者の意見がほとんど現れてこないのだ。 著者略歴には、誇らしげに元・新聞記者とあったので、薄々は予感していたけれど、“期待”以上にひどかった。 新聞記事というのは、新聞社としての意見はできるだけ抑えるように見せつつ、風評をまとめるという形になって巧妙に表される、らしい(「大人のための文章教室」清水義範著,講談社現代新書より)。従って、まるで事務的な報道記事風に書かれたドキュメントを読んでも、感情が揺り動かされるどころか、ピクリとも反応しない。阪神大震災で愛娘を失った時の回想ですら、冷静な報道調なのだ インパクトのあるタイトルが目を惹くが、「悔し涙の準優勝」から「悲願の初優勝」までの4年間に、監督が変えたことは、区間オーダーにおける考え方と、当日の監督自身の行動ぐらいしか挙げられていない。 おそらく、自らの意見を封印してしまっているために、当り障りのない場面までしか語ることができないのだろう。 本書から学ぶことが無いわけではないが、せいぜい学校の記念誌としての価値ぐらいしか見出すことができない。 |