先日閉幕したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、侍ジャパンの活躍が日本中を大いに沸かせてくれた。
とりわけ、決勝戦での最終打者のバットを、美しい白球の軌跡で空を切らせた大谷翔平をはじめ、キャンプインからチームメイトを献身的にサポートしたダルビッシュ有の活躍、そして何より、不振にあえぐ村上宗隆を最後まで信じ、起用しつづけた監督の栗山英樹の逃げない姿勢を見るにつけ、ベースボールの魅力を改めて認識させられてしまった。
WBCでの侍ジャパンは、彼ら日本ハムファイターズOBの活躍が著しかった。
そして、WBCの熱狂冷めやらぬ2023年ペナントレースも、この球団が話題をさらっている。
札幌ドームを出て新球場を建設する、という報道は様々な関係者の度肝を抜くものだったが、本書では新球場建設にかかわってきた人物を丁寧に追い、誰も聞いたことのない過疎化が進む地方都市に脚光を浴びせるに至った過程を大局的に描いてくれる。
その人物とは、スポーツマーケティングの専門家として複数の球団を渡り歩くプロフェッショナルであったり、北広島市や札幌市の職員であったり、そして日本ハムという巨大企業のビジネスマンであったりと、対立が生じがちなトピックだからこそ、様々な立場の人物を登場させ、それぞれの意見を伝えてくれる。
なかでも、夢の実現に奔走する前沢賢をはじめとした球団特命チームと、ビジネスの視点から巨額投資を慎重に検討する親会社との関係は、理想と現実の間で揺れる緊張関係を読者に知らしめてくれる。
一方、地方創生という観点からも、このプロジェクトは歴史に残る挑戦ではないだろうか。
都内でのアンケートで認知度がゼロという事実 (P160)だった地方都市が、いまやアメリカモデルの日本初ボールパークとして注目されている。
このチャレンジが成功するか否かの総括には、もうしばらく時間を要するだろう。
現に、チームの不振も相まって、アクセスの悪さもありスタンドの入りは今ひとつ (日本経済新聞 2023/5/2)とスタートダッシュには苦戦している。
だが、ベースボールというキラーコンテンツを中心に、街づくりそのものをガラリと変えてしまう可能性を秘めたエンターテインメントを、官と民それぞれの立場で築き上げた彼らの行動には、力強いエールを送りたい。
そして、かれらの挑戦を丹念に追い、美しいノンフィクションにまとめてくれた著者の挑戦もまた、心から称えたい。
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