野球、サッカー、ゴルフと、様々な種目のトップアスリートが身につけている、あのファイテンのネックレス。とりわけ、マラソンや駅伝中継を見ていると、選手はランニングシャツしか身につけていないので、余計に目についてしまう。 あのネックレスの商品名は「RAKUWAネック」と名付けられていて、累計1800万本も売り上げたお化け商品だという。 あんなちゃちなゴムバンド1本に、一体どれだけの効果があるというのだろう? この疑問は、私だけではなく、多くの人がテレビであれを見つけるたびに感じていることだろう。もちろん、本書の著者もその一人に違いない。
著者は、「魔法の首輪」の謎を解くため、京都の本社へ社長を訪ね、それでも納得がゆかず、ファイテンを実際に使用している契約選手にも話を聞き、ついには渡米し、MLB(メジャーリーグベースボール)や、権威ある研究者へも体当たりで取材してゆく。 このあたりの、同社広報マンのサービス精神と、著者のフットワークの軽さは、スピード感を感じて心地よい。 しかし、肝心の「謎」はなかなかひも解けない。そもそも、ファイテンが特許を有する「アクアチタン」とは、一体何なのだろうか? 社長の話によると、ファイテンの秘密は、「生体電気を整える 」「うちの会社独自の加工を施した金属 (P27)」だそうで、金属はチタンでなくても良いそうなのだが、効果が科学的に実証されているわけではなく、直営店の店員ですら、効果については明言を避けている。そもそも、「生体電気」という用語や概念は、現代医学には存在すらしないらしい(P158)。 (ちなみに、ファイテンの有する「特許」とは、溶けないはずのチタンを溶かした、画期的な技術に関するものであり、アクアチタンの効果に関する特許ではない。)
謎が深まる一方で、実際にファイテンを愛してやまないアスリートは、少なくない。彼らとて「なぜ良いのか」という科学的な根拠を知っているわけではなく、使う理由については、「結果が良いから使っている」という、経験的な答えしか返ってこない。 取材した選手は、高橋尚子をはじめ、ゴルフの片山晋呉や、スケートの荒川静香に、プロ野球界の「鉄人」・金本知憲ら、各界のトップアスリートばかりだ。当然、鋭い身体感覚で日々の体調管理に余念がないはずの彼らが、科学的には実証されていない「怪しい」物質を身につけているのだ。 体質改善、健康増進と謳われる商品の多くは、科学的な効果を前面に出すことによって、売り上げにつなげる方法を採るが、ファイテンは、医学の専門家をして「売れ行きが効果を示している (P219)」と言わしめる現象を起こしている。 もちろん、科学的な実証が全くできていないわけではなく、少なくともマウスの実験では、ファイテンのチタンを使用したことによる「鎮静効果」が認められているというが、人間による効果検証はまだこれからだ。
よく分からないけれど効果がある、などという、あいまいな商品があって良いのだろうかと不思議に感じていたのだが、医学者によると、現代医学は万能ではないと言い、伝承的に良いとされている療法のなかには、科学的に実証されていないことも多いのだという。 漢方や薬にも、効く人と、効かない人がいるように、偽薬を投与しても投薬効果がでてしまう「プラシーボ効果」とて、結果として効果が出ていることには間違いない。 なんとなくだまされている気がしないでもないのだが、「『効いた』という人がたくさんいるのは事実 (P243)」なのだから、まあ、使ってみようかな。 不思議とそんな気にさせられるのも、魔法の力の効果なのだろうか。
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