いまや、夏合宿すらテレビの特集番組で組まれるほど人気が過熱している箱根駅伝。私にはそんな人気の高さに乗じた、大学側のマネジメントの思惑が透けて見えてしまうようで、最近は箱根駅伝関連の番組も見る機会がだいぶ少なくなってしまった。 しかし、純粋に学生ランナーがひとつの目標に向かって練習に励む姿や、駅伝ならではの駆け引き、起伏に富んだコースなど、箱根駅伝ならではの魅力は、他のスポーツでは見られない壮大なロマンに溢れていることは言を俟たない。
本書は、競技関係者だけでなく、老若男女を問わず愛されてやまない箱根駅伝について、各大学ごとに印象に残るシーンや選手を紹介しながら、83回の歴史をプレイバックしていく内容で、迫力あるカラー写真がこれまでの名シーンを思い起こさせてくれる。 また、現役選手だけではなく、渡辺康幸(早大)、花田勝彦(上武大)、櫛部静二(城西大)、武井隆次(SB食品)の早大OBによる対談や、かつて箱根路を沸かせたランナーのその後の意外な進路など、雑誌ならではの、雑談めいた興味深い記事が目白押しで、どれもこれも目を皿のようにして見入ってしまう。
特に、冒頭を飾る武田薫によるコラム「箱根駅伝と円谷幸吉の仮定法 」は、駅伝がチームスポーツなのだということを強く確認させてくれる文章だ。 「襷は仲間との絆」なんてストレートに言うと、なんだか白々しい感じがあるが、伝説のランナーを引き合いに出して、「もし円谷が箱根駅伝を走っていたら (中略)・・・死ななかった。円谷には襷をくれる相手も、渡す相手もいなかった。誰かが待っていたら、メロスのように這ってでもたどりついたのだ 」なんて美しい言葉で語られると、たった一本の布っきれが、命に比類する重みを持っているかのように感じさせてくれる。
この手の箱根特集誌は、最近は毎年のように出版されているが、毎年それなりに趣向を凝らしていて、内容が充実している割に値段は抑えられている。 陸上競技界にとって、人気の高さは群を抜く大会なだけに、編集部の気合の入れようが伝わってくるようだ。
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