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箱根のメンタル
箱根駅伝から僕たちが学んだこと

箱根のメンタル
著者
出版社 宝島社
出版年月 2019年12月
価格 1,500円
入手場所 楽天ブックス
書評掲載 2020年4月
★★★☆☆

 テレビの前で、そして沿道で国民の熱い注目を集める箱根駅伝は、いまや日本のお正月に欠かせないビッグイベントだ。
 長い歴史を誇り、10区間・200km超の長丁場を2日間にかけてリレーする、という世界に類を見ない壮大さに加え、母校の誇りを背負ったタスキをゴールまで運ぶというプレッシャーの大きさは、想像に難くない。

 ここ数年は、箱根駅伝で活躍した選手から、マラソン日本記録更新や、国際マラソン優勝など、世界に羽ばたこうとするアスリートが次々に生まれていることは、そんな貴重な経験が生きているに違いない。
 本書はそんなアスリートへの取材を通じ、箱根駅伝を通じて学んだ経験を語ってもらうインタビュー集で、いまも選手やコーチとして陸上競技にかかわっている17名が登場してくれる。
 その17名とは、箱根で活躍した選手を扱った第1章「栄光の箱根路」と第2章「箱根に残してきたもの」から神野大地(青山学院)、設楽悠太(東洋)、服部翔大(日体)、田口雅也(東洋)、上野渉(駒澤)、村澤明伸(東海)、町澤大雅(中央)、中山顕(中央)。
 第3章「常勝軍団 青学スピリット」から渡邉利典、一色恭志、田村和希、下田裕太、森田歩希、林奎介の6名。
 そして第4章「もう一度目指す箱根」から渡辺康幸(早稲田)、藤田敦史(駒澤)、上野裕一郎(中央)の3名が登場する。

 彼らのインタビューを聞いていると、華やかに見える箱根駅伝の舞台裏で、ハードなトレーニングや熾烈な部内競争に加え、秋以降は神経質なほどの体調管理を要するなど、肉体面、精神面のいずれにおいても想像以上に強靭さを求められるようだ。
 そんな17名の中でやや異色な意識を感じさせてくれたのが、設楽悠太だ。
 別に箱根を走れなくても部をクビにならないし、大学の時は選手の責任というよりも監督の責任のほうが大きかったので、結果的に走れなくてもいいかな、くらいの気持ちでした。箱根に対しては、子供のころから憧れもなかったですね。(P36)と、自然体でひょうひょうと語る姿勢が彼らしい。

 そして、もう一人印象に残った登場人物が、中山顕だ。
 高校時代の夏まで5,000m15分台後半という平凡な選手で、薬学部のある大学に進学し、薬剤師になるつもりだった(P121)という若者はしかし、高校最後の記録会で15分08秒と自己ベストを30秒以上も短縮し、大学でも陸上を続ける決意を固めたという。
 しかし、伝統ある中央大では9月までに5,000m15分を切らなければ陸上部に残ることは許されない。
 その期限を延長してもらい、なんとか12月までに達成した後も、入寮基準の14分40秒をクリアし、ついに箱根駅伝に出場し、4年時には1区2位の素晴らしい快走を見せた。
 高校時代は無名の選手が、大学で10,000m28分22秒、ハーフマラソン1時間1分32秒と学生トップクラスに成長した成り上がりストーリーは、専門誌でも特集され(月刊陸上競技2019年3月号)、大変興味を持っていた人物だけに、本書でより深く知ることができ、何度も読み返してしまった。
 箱根の魅力、恐るべし。

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