にわかに100m走が日本中の注目を集めている。
2年前に桐生祥秀が9秒台を出したかと思えば、つい先日にはサニブラウン・アブデル・ハキームが9秒97の日本新記録を叩き出した。
オリンピックや世界選手権で決勝に残ったわけでもないのに、これだけ盛り上がってしまう理由のひとつは、陸上競技には評価の物差しとして記録が大きな比重を占めているからに違いない。
なかでもメディアへの露出度が高い大学駅伝は、レースの中継時に記録やデータが数多く紹介され、視聴者を飽きさせない工夫に満ちている。
たとえ「3区を走った〇〇選手は、1年生としてはXX大学史上2番目のタイムでした」などと、競技関係者以外にはさっぱりスゴさが分からなくても、(私のような)マニアックなファンならば「(惜しい! 歴代1位まであと4秒足りなかったか! うーむ、下りの走り方が課題だな)」とひとりごちてしまうのが「通の嗜み」だ。
著者はそんなコアなファンが食い入ってしまう幅広い情報を提供してくれ、大学駅伝に関する歴史や、往年の名選手の活躍を数多く紹介してくれる。
とりわけ、圧倒的な注目度を誇る箱根駅伝だけではなく、出雲や全日本大学駅伝、そして地方学連が主催する競技会もテーマに挙げていて、駅伝という競技の高い人気と、すそ野の広さを教えてくれるようだ。
たとえば、最近マラソンで注目を集めている大迫傑や設楽悠太の出身校や学生時代の活躍ぶりは知られているだろうが、永田宏一郎(鹿屋体大)や荒川大作(京産大)といった関東以外の名ランナーを「高率区間賞」や「ゴボウ抜き記録」から見つけるにつけ、オールドファンにとっては懐かしさを禁じ得ない。
本書は陸上競技マガジンに連載された記事をまとめたショートストーリー集ではあるが、著者は出版社やスポーツ関係の仕事に就いていたわけではなく、高校教諭を務めながら、趣味が高じて手作業で記録集計を行ったり、国会図書館まで出向いて資料を調べたりと、ジャーナリスト顔負けの行動力を誇っている。
私も陸上競技関係の書籍が大好きで、この道においては母校のコーチに続く「第二人者」と自任していたが、陸上競技やマラソン・駅伝関係の書籍を、概ね読破、通暁しました (P181)とさらりと紹介されてしまうと、陸上競技ファンという人種はつくづくマニアが多いものだとあきれてしまう。
おかげで私は今日から「第三人者」を自称しなければならないではないか。
いや、むしろこれだけ豊富な情報量を有する著者が、惜しげもなく大学駅伝の魅力を紹介してくれることには感謝しなければならないだろう。
連載記事であるがゆえに個々のテーマは「浅く、広く」といったスタンスではあるが、「市長の熱意で実現した出雲駅伝」(P27)といった創設秘話や、「箱根の10区間は「4・3・2・1」が理想的」(P97)といった戦略論に至るまで、幅広いテーマをコンパクトにまとめ、大学駅伝をより深く知りたくなってくる。
なるほど著者がこの世界にのめりこむ理由が分かる気がしてしまう。
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