著者 |
小出義雄 |
出版社 |
ザ・マサダ |
出版年月 |
1996年12月 |
価格 |
\1,359(税別) |
入手場所 |
ブックオフ |
書評掲載 |
2010年8月 |
評 |
★★★★☆ |
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本書は、有森裕子選手が女子マラソン銅メダルを獲得したアトランタオリンピック後に出版された書籍で、2大会連続メダルを獲得するまでに至った苦労話とともに、「かけっこ」に生涯をささげている著者自身の半生を振り返る自伝的エッセイだ。
体育の先生にほめられたことをきっかけに走ることを好きになったこと、全国高校駅伝や青東駅伝(青森・東京間駅伝)を通じて、駅伝の魅力にとりつかれていったことなど、走ることが好きになっていく様子を生き生きとしながら振り返っている。
そしてなにより、農家の長男として生まれた著者が、父親から大学進学を反対されて家を飛び出しながらも、職を転々としながら走ることを続け、ついには夢であった箱根駅伝に出場する姿をみるにつけ、走ることに対する著者の情熱の強さが十二分に伝わってくる。
そして、その情熱の強さは指導者になってからも衰えることはない。いや、むしろ年を重ねていくごとにますます強くなっていくようにもみえる。
高校教諭の初任地である長生高校では、1,500m障害で高校記録のおまけ付きでインターハイの栄冠を勝ち取った伊藤裕選手をはじめ、常識にとらわれない指導で次々に有力選手を育てていった。
この頃について、「指導者というのは、常識人じゃダメだ。常識を超えるような発想からこそ、成功への道が開けるんだ (P106)」と、振り返っている。まさに現在の個性的な指導の原点を見ているようだ。
その後、佐倉高校で初めての全国高校駅伝出場、市立船橋高校では男女ともに全国高校駅伝優勝を果たすなど、抜群の指導力を発揮していくのだが、「高校でやるべきことは全てやり遂げた (P152)」と、定年を数年後に控えて、実業団チームの監督に転身してしまう。
ちなみに、この高校教諭時代には、生徒と一緒にメロン泥棒をしたり、検問で飲酒運転が発覚したりと、まるでガキ大将がそのまま大人になってしまったような大胆さが垣間見えて、思わず笑いがこぼれてしまう。
それにしても、なんという破天荒な生き方なのだろうか。本書を読み終えて、うらやましい気持ちと同時に、あきれた気持ちすら芽生えている自分がいた。
もちろん、これほど中身の濃い生き方をしているからこそ、柔軟な発想や豊かな人間関係が育まれ、素晴らしい選手が次々と育っているのだろう。
そういえば、著者は本書のなかで、「指導者の仕事とは結局、『心をつくる』ことだと私は思っている (P109)。」と語り、選手の自発的な意識付けの必要性を説いている。
難解な技術論だけではなく、人を育てるために最も必要なことが何であるかを、教えてもらった気がする。
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