著者 |
吉田誠一 |
出版社 |
講談社 |
出版年月 |
2008年2月 |
価格 |
\1,500 |
入手場所 |
bk1 |
書評掲載 |
2008年9月 |
評 |
★★★★☆ |
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お腹の出具合が気になり始めた41歳の新聞記者が、後輩の勧めでランニングの世界に足を踏み込んでしまった。 しかもキリがいいからと、「42歳で42キロ」という決意までしてしまう。
はじめのうちは3キロから走り始め、徐々に距離を伸ばしていく。それはごく一般的な市民ランナーのひとりだろう。だが、新品のランニングシューズにワクワクしてしまい、昨日より遠くまで走れたことに嬉しさを感じていく。そんな子供のような素直な感情表現が多く、自分の走り始めたころを思い出しながら、思わず「そうそう!」なんて相槌を打ってしまいそうになる。
本書を手にした時は、正直に言って「所詮、市民ランナーのランニング日記だろう」などと軽く見ていたけれど、いわゆる市民ランナーでも、記録を追い求めているし、昨日よりもっと遠くまで走ることを目指している。そもそも、仕事で忙しいはずなのに毎日走っている。 彼らは決して余暇をつぶすためや、スリムな身体になるためだけに走っているのではなく、走ることに対する情熱はトップクラスのランナーに勝るとも劣らない。 一般的に、マラソンランナーは内向的な性格の選手が多く、走っているときに何を考えているのか語られることは多くない。ましてや、2時間少々で完走するトップクラスのランナーと違って、彼らは優にその倍以上はかかっている。 それ故に、走らない人の多くは、「マラソンは退屈なスポーツ」という固定観念があるらしいのだが、著者は「誤解されている」、「まったく理解されていない」と憤慨し、ランナーの真実を知ってもらうために、本書を記す決意をしたという。
新聞記者というと、独特のクセのある文章を書く人が多いけれど、本書では、客観的に書くという記者の立場はひとまず置いておき、ひたすら主観的に自らが走って感じたことを記している。 しかもベルリンやネス湖(!?)など、観光地で有名な地域を走っているにもかかわらず、絵や写真は一切ない。とにかく文章力だけで読者の感性を刺激させてくれる。「ヨム
マラソン」というよりは、むしろ良い意味で「ヨマセル
マラソン」だ。 日経新聞の記者であるのに、同社から出版しなかったのは、「これは記事ではない」という、著者なりのこだわりがあったのだろうか。 特に最終章「ネス湖の充足」は、そこへ至る旅路や、噂のネッシー現地報告から、レース中の寒さや苦しみと闘っている姿がとても感情的に綴られていて、一気読みしてしまう。 読んでいるこちらに息遣いが伝わってくるような臨場感。ランニング愛好家には、うってつけの一冊です。
(ちなみに、著者の脱稿時の自己ベスト3時間22分11秒。この記録を引っさげて、次回はボストンマラソンに挑戦するというが、その後の経過が気になってしまいそうです。)
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