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王者の食ノート
−スポーツ栄養士 虎石真弥、勝利への挑戦−

王者の食ノート
著者 島沢優子
出版社 小学館
出版年月 2011年12月
価格 \1,300(税別)
入手場所 市立図書館
書評掲載 2014年10月
★★★★☆

 大学スポーツ界における近年の東洋大学の活躍は目覚ましい。
 陸上短距離で100m・9秒台が期待されている桐生祥秀をはじめ、水泳でもオリンピッククラスの選手を獲得するなど、ここ数年のスポーツに対する力の注ぎ方は他を圧倒している。
 とりわけ東洋大学の名を高めたのが箱根駅伝での大活躍で、2009年以降の直近6年間で、4度の優勝と2度の準優勝という圧倒的な安定感を誇っている。
 この「黄金時代」とも呼べる躍進の理由として、山登りで常人離れした走りを見せた柏原竜二の存在が大きいことは言うまでもないが、華やかな世界の陰で、選手を力強くサポートしてきたプロフェッショナルの存在があったことはあまり知られていないのではないだろうか。

 東洋大学の駅伝チームといえば、かつては箱根駅伝でシード権を獲得するのが精一杯。時には本選出場を逃すこともある中堅校のイメージが強かったが、いまや酒井俊幸監督のもと、大学長距離界で常に上位を争うたくましい存在に躍り出た。
 酒井にとっては、前任の川嶋伸次が不祥事の責任を取る形での辞任を受けた、唐突な監督就任だったのだが、選手のコンディショニングを高めたいと、就任早々に栄養面でのサポートを依頼した先が、本書に登場する虎石真弥(まみ)だ。
 酒井自身も高校時代に貧血で苦しみ、栄養に関して強い関心があったようだが、箱根のディフェンディングチャンピオンとして初陣に挑まなければならない酒井にとって、食に関するプロフェッショナルスタッフの存在は大きな安心につながったに違いない。

 だが、近年の大学スポーツ人気に伴い、チーム専用の寮を整え、栄養面のバックアップを行っている大学は少なくないはずだ。では、虎石が選手やスタッフから絶大な信頼を得ている理由はどこにあるのだろうか?
 それは、浸透させる力、伝える力がすごい(P110)点にある。
 学生アスリートにとって、栄養の重要性は頭で理解していても、資金的な理由からジャンクフードで済ませてしまうことが少なくない。しかも、食事を変えたからといっても、その結果がすぐにはパフォーマンスに影響を与えないことも、食事を軽視してしまう要因になっている。
 そんな学生らに対し、虎石は血液検査などの数値で栄養状態を可視化し、貧血予防や体調管理にどれほど食事が重要なのかを地道に説いていった。
 貴重な小遣いを食材に費やすことに躊躇する学生であっても、走るタイムや、ベンチプレスの数字に対しては敏感なアスリートの心情を逆手に取ったわけだ。

 その一方で、どれだけ練習をがんばり、食事に気を使っていても、目標としている大会直前に体調を崩してしまうこともある。
 虎石が「一番印象に残った選手(P42)」として挙げるのは、4年間で箱根駅伝を一度も走ることなく卒業した、東洋大の本田勝也だ。
 実力がありながらも、大会直前のインフルエンザや、けがに泣かされたエピソードには心打たれるが、虎石が表面的な栄養管理をしているだけではなく、選手全員とこまめにコミュニケーションをとりながら、個々の生活まで把握し、信頼を築いてきた話題が本書には満ちている。そしてそこからは、彼女が活き活きと仕事に没頭している様子が伝わってくるのだが、「栄養」というテーマを本業とすることは簡単ではないようだ。
 いまでこそ様々なチームからその手腕が注目されている虎石も、駆け出し時代には管理栄養士の仕事だけでは生活できず、アルバイトでなんとか生計を保っていたという。
 食事からスポーツを支えるという明確な哲学を持った先駆者の活躍が、今後のスポーツ界を変えていくのではないか。本書を読んで、そんな期待を抱かずにはいられない。

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